病んでたけど和成くんとヤったら何故かスッキリして私のテンションは通常に戻った。
でもまだ戻りきれていないのか人肌が恋しくて、しょっちゅう店外しようって誘ってくる清志くんと外で会う約束をしてしまった。
お昼過ぎに秀徳のある駅から数駅の大きい街の駅前で待ち合わせた。

「名前ちゃんどこ行きたい?」

「どこでもいいよー」

返事してからちょっと後悔。ノリ悪すぎでしょ私。でも清志くんは気にした様子もなく肩を抱いてきた。

「じゃあまず昼飯でも食いに行くかー?」

「うん」

清志くんが歩き出したから必然的に私も足を動かさなきゃいけない。もうすでに歩きたくない私は清志くんに声をかけた。

「ねー歩きたくない抱っこして」

「ほら」

立ち止まった清志くんが脇を掴んで持ち上げられて思わず絶叫。本当にするとは思わなかったよ。多分昼休み中であろうOLやサラリーマンがチラチラとこちらを見てくる。恥ずかしくはないけど居心地が悪い。

「冗談だよー降ろしてよ」

「あ?」

一瞬眉間に皺を寄せ私を降ろした清志くんはまた肩を抱いて歩きだした。
不機嫌オーラが漂ってきている。清志くんって冗談通じないよなーしかもキレやすいし。コワいコワい。
不機嫌な人間を相手するのは面倒なのでなんとか機嫌直して欲しいんだけどどうしたらいいの。

「ねー私パスタ食べたいなー」

「麺だったらラーメンの方がいいだろ」

素っ気無く言い放った清志くんに帰りたくなった。もうこれ帰っていいよね不機嫌になられてまで一緒に居たくないし。私が溜め息を吐くと私の肩を抱く手が一瞬びくりと揺れた。

「わりぃ、怒ったか?」

「怒ってないよ」

すぐ不機嫌になるワリにはこっちの態度には敏感らしい。不安げな表情で覗き込んできた清志くんは何度も謝り始めた。
それに私は笑顔で答える。

「気にしないでよ。ラーメン食べに行く?」

「いや、イタメシ屋行くか」

さっきラーメンの方がいいって言ったじゃん面倒くさいな。でもこれ以上に面倒なことになりたくないから私は清志くんに抱き付いて「やったー」と笑顔で喜ぶフリをした。


 * * *


食事を終えたあとはウィンドウショッピングを楽しみ、清志くんが色々と買ってくれた。
これ可愛い!って言ったバッグとか服とかアクセとか本当に色々と買ってくれた。服は全部清志くん好みで選ばれたけど、可愛かったヤツだからよしとしよう。
なんか買ってもらっただけで今日来てよかったなーって思う私は相変わらずゲス人間から脱出できないでいる。

「次どこいく?帰る?」

カフェの一番奥で休憩中、もう暗くなってきたからと一応問いかける。前にラブホ行くんじゃ私の店通すのと変わらない的なこと言ってたの覚えてるし。当然のようにラブホ街に行って清志くんが不機嫌になったら面倒くさい。
清志くんが私の思惑に気付くはずもなく、何やら考え込み始めた。

「俺名前ちゃん家行ってみてーな」

まさかの私ん家。大輝と和成くんは入れたことあるけど、正直清志くんに家バレとかしたくない。
私は笑いながら嘘吐いた。

「ごめん私実家住みなんだよねー」

「あ?嘘つくんじゃねーよ轢き殺すぞ」

なんで嘘ってバレた。私が一瞬固まったのに気付いたのか、清志くんは笑顔で青筋を立てていた。

「やっぱ一人暮らしじゃねーか」

もしかしてカマかけたの!?そんなこと言えるはずもなく私は乾いた笑いを漏らす。

「んー、だってウチ汚いし恥ずかしいんだもん」

「別に気にしねーから」

嘘の理由だということは気付かないらしく、清志くんが不機嫌続行することはなかった。よかった。
でも、これ断れそうにないよね。まじヤなんだけどなー。

「なぁ、いいだろ?」

テーブルに身を乗り出した清志くんにキスされ、断れるはずもなかった。
だってイケメンにこんなことされたら誰だってときめくと思う。イケメンって何してもやっぱイケメン。


 * * *


アパートに着いて私の部屋へと足を踏み入れた清志くんの顔が引き攣っている。
ここ最近荒れた生活をしていたせいか、洗濯済みの服は畳まれることもなく散乱してゴミの入ったコンビニの袋も山積み。
たぶん床の隅っことか家具とかにホコリ積ってると思う。でも清志くん気にしないって言ったし。

「想像以上だったわ」

「だから実家暮らしだって嘘吐いたのに!」

「わりぃ、引いてねーから安心して」

絶対ドン引きしてるよ。女子力のカケラもない私にドン引きしてるよ。一瞬落ち込んだけど清志くんに引かれても別に困んないやってすぐに立ち直った。
清志くんは比較的キレイに保っているローソファーに腰掛けて手招きしてきた。
素直に近寄ると、清志くんは私の腕を引っ張って、体勢を崩れた私を抱きとめた。

「名前ちゃん、まじ俺と付き合って」

「私なんかと付き合わないほうがいいよ」

何回も言われた言葉に何回も言った言葉で返す。正直、付き合ってもいいくらいには清志くんの見た目は気に入っている。でも性格の面倒くささが勝ってやっぱ無理だなとも思う。
罪悪感を感じたり束縛されて嫌な気持ちになるくらいなら彼氏なんていらない。

「彼氏がいるからか?」

「もー別れたよ」

多分大輝のことを言ってるんだろう。根堀り葉堀り聞かれるくらいならとまた嘘を吐く。大輝特定されたら面倒。
私の本心を察してくれない清志くんは引き下がる様子を見せなかった。

「じゃーいーだろ?大事にするから」

「ごめんね、私浮気性だしホントやめたほうがいいよ」

「名前ちゃんが言うなら俺夜の仕事辞めて真面目になるから、名前ちゃんも俺だけにしろよ」

そういう問題じゃないんだよ。たとえ清志くんが浮気しないで昼職で真面目にやったとしてもきっと私は浮気するしホスクラ通いもやめないし、束縛されたらムカついてすぐ別れるって言うと思うよ。
清志くんは私の顎に手を添えて見つめている。私も見つめ返す。
清志くんの表情は悲しげで、こっちまでなんだか悲しくなった気がした。

「浮気していいなら、束縛しないなら、お互い夜の仕事続けるなら付き合う」

「……わかった。何でも許すから形だけでも俺のモンになって」

まさか清志くんがこんな返答をするなんて思ってもなかった。
なんで私あんなこと言っちゃったんだろう。彼氏なんていらないはずなのに、なんで。
恋人同士になったっていうのに私たちを包む空気はなんだか薄暗かった。
でも、あんな清志くんの表情を見て断る言葉だけを告げるなんて出来るはずがない。
なにをどうしたらいいのか、どうすればよかったのかなんてバカな私にわかるわけがなかった。
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