今日は和成くんと店外デートなんだけど、なんかオシャレなバーに連れて来られた。

「ねえ私場違いじゃない?なんでバカがバーなんかに来てんだよとか思われてない?」

「名前ちゃんそれギャグ?」

「違うよ!ねえ居酒屋とかでも良かったんじゃない?」

正直私はオシャレな場所は場違いになりそうで苦手だった。居酒屋で枝豆とかつまみにビール飲んでるほうが似合ってると思う。自分で思っといて悲しくなってきた。オッサンか。
和成くんはカウンターでお酒を注文している。まだ三杯目だから酔ってない。最初が最初だったから私の中で和成くんイコール酔っ払いってなってるのがちょっとウケた。

「俺もやっぱ男だからさー、たまにはオシャレな店でカッコよく決めてーじゃん?」

「大丈夫だよ和成くんはいつもカッコいいよ」

「俺に惚れたら火傷するぜー?」

「ごめんそのギャグカッコよくないや」

私が笑うと和成くんも笑った。ギャグは寒いけどやっぱカッコいいなーなんて見つめていると、タバコを持った和成くんの左手の薬指が目に入った。
別に指輪嵌めてるってワケじゃない。多分あれは――。

「和成くん、それ墨?」

「ん?あぁコレね。若気の至りってヤツ?」

自分の薬指に視線を落とした和成くんは恥ずかしそうに笑った。視線の先にはリング型に墨が彫られている。
やっぱり若気の至りだったか。さすがに職業柄薬指にアクセや絆創膏つけてごまかすわけにはいかないんだろう。だったらオープンにして本当のことを話したほうがいい。
私も一回元彼の名前を彫ろうとしていた時期があったけど、やめといてホントに良かった。だって現に元彼になってるし。

「マジやめときゃ良かったなー」

「私やんなくてよかったー」

「えー、名前ちゃん俺の名前彫るっしょ?」

「彫らないよー」

この先もし結婚して子供が生まれたら子供の名前だったら彫りたいけど。まぁそんな将来は高確率で来ないだろう。私が結婚出来るとは思わないしそもそも結婚とかしたくないな。

「そーいや俺の友達墨入れてるの多いんだけど、皆C型肝炎なって顔浮腫んでたわ」

「あー、私の知り合いもみんななってる。ポンプ回し打ちしてたヤツらもみんなC型肝炎」

二人で絶対かかりたくないよねと笑いあう。
和成くんはきっと新品の針で自分で入れたから病気にならなかったんだろう。この先感染する可能性もあるけど。そういうのには一切手出さないでよかったと心底思う。

「てかヤクとかぜってーやりたくねーよな。人生詰むし」

「この前合法ハーブやったバカがパキりすぎて救急車で運ばれたよ」

「名前ちゃんの周りなんでそんなんばっかなの」

和成くんは笑い出した。と思ったら真剣な表情で見つめられた。

「名前ちゃんはやってないよね?すげー心配なんだけど」

「やんないよー。昔一回安定剤オーディーしたくらいかな」

「名前ちゃん病んでんの?そーいう時は俺に頼ってよ?」

「今はもうやんないよ」

私はここがバーだと忘れていた。もう緊張は取れた気がする。やっぱ和成くんは一緒にいて安心出来るなあ。
それに頼もしい。酔っ払うと頼もしさなんて跡形もなく消え去るけど。
和成くんは私の肩を抱いてきた。

「なんで昔そんなんしたの?」

「なんかすっごいくだらない理由ー。バス乗ってたはずなんだけど気付いたら一日経ってて病院だった。コンビニのトイレで発見されたらしいしワケわかんないよ」

「もーマジでやんないでよ、俺泣くよ?」

「じゃあ和成くん泣かせたくないから絶対やんなーい」

私の言葉に満足そうに笑った和成くんは、またタバコに火を点けて酒を煽り始めた。私も吸おうとすると火を点けてくれる。
その後もくだらなくてバカな会話を続け、結構いい感じに酔っ払ってきた。

「次どこで飲もっか?」

バーは高いのでどこかで飲みなおそうと提案すると、和成くんはへにゃりと笑った。

「じゃーなんか買ってって俺ん家で飲むー?」

「行っていいの?」

「どーせ名前ちゃん家と同じ駅だし帰るときも楽っしょ?」

「じゃあ行かせてもらおうかなー」

会計しようとすると、和成くんに止められて済まされてしまった。最近エースが付いたらしい和成くんはよく奢ってくれる。
多分和成くんは私のことを趣味カノだとでも思ってるんだろう。支払いしてもらったことはヤれば気にしなくてもいいよねなんてサイフを仕舞った。


 * * *


バー近くのコンビニで大量に酒を買い込み、タクシーを呼んで和成くんの家まで来た。
和成くんの家はごく普通のアパートで多分間取りは1DKくらい。
キレイに片付いているわけでも汚く散らかっているわけでもない部屋のソファーに座り、お酒を飲む。

「ねー、名前ちゃんって彼氏いんの?」

「二次元にいっぱいいるよー」

「うわー名前ちゃんビッチじゃん」

「でも三次元は和成くんだけだよ」

付き合ってないけどなんかお前だけ営業したくなった。特別深い意味はない。私の発言のほとんどがその場のノリだ。

「マジ?俺も名前ちゃんだけー」

抱き付いてきた和成くんに抱き付き返す。今日の私はとても気分が良かった。普段はあまり甘えたりしないけど、お酒も入ってることだし今日は和成くんに甘えることにしよう。

「和成くんチュー」

「今日はどうしちゃったの?」

嬉しそうに笑った和成くんは、私を太腿の上へと乗せてくれた。そのまま口付けると、頭を押え込まれる。
和成くんの舌が咥内へ入って絡めようとしてくるので舌を逃がす。これも特別深い意味はない。
そんな風に遊んでいたら更に深く口付けられたので、そこでやっと舌を絡ませた。
時折頭を撫でられながら、時間も忘れてキスした。キスでここまで気持ちいいのは久々だった。
肩を押して少し体を離して和成くんを見つめる。

「ねえ……エッチしたい」

「マジ今日どうしちゃったの?色々とやべえって」

和成くんは余裕のなさそうな表情で私を抱き締めてきた。首筋に顔を埋めて軽く舐めると、和成くんは肩を揺らす。

「ベッド行こう?」

私の言葉に無言で立ち上がった和成くんは私を抱きかかえている。重いだろうなーなんて思いながらも降ろしてなんて言わない。
私も自分で今日はどうしちゃったんだろうって思う。なんか色々と可笑しい。

「名前ちゃんからヤりたいっつってくれたの初めてじゃねー?」

「いつもしたいって思ってるよ」

本当は思ってないけど。酔っているからか、そんなセリフがすらすらと出てくる。
でも今はホントにヤりたい。
ベッドに降ろされると、和成くんが覆い被さってきた。
手を伸ばして抱き寄せまた唇を重ねると、和成くんはすぐに唇を離した。

「ちょっと辛いから早くシていい?」

私が頷くと、和成くんはいつもより乱暴な手つきで私の服を剥ぎ始めた。


 * * *


ヤったあとも私は和成くんにくっついていた。それに和成くんは嬉しそうに笑っている。
普段はこんなにベタベタしない。ヤる前はともかくヤった後に甘い雰囲気なんて必要ないと男は思ってるから。でも今日はそんなこと気にしないことにした。
ウザがられると思ったら和成くんは面倒くさそうな表情なんて見せたりしないしちょっと嬉しい。

「名前ちゃん結婚しよっかー」

「えー、私独身貴族になる予定だしー」

「なんでよー俺と幸せな家庭作ろうぜ」

和成くんの言うことのほとんどが冗談だということはわかっている。いつもこんなような冗談言ってるし。

「和成くんも私も結婚向かなさそー」

「もーまじ俺名前ちゃんのそういう夢見てないとこ大好き」

和成くんは私に軽く口付けて笑った。私も和成くんのそういう軽いノリ大好き。
夢見がちじゃこの暗い世界なんて生きていけない。
この部屋の至るところに置いてある女モノを見て「家族のかな」なんて思って彼女のモノだとも気付かない甘いバカにはなれない。
シビアにならないといつか傷だらけになってしまうんだよ。
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