ヤバい、お金がない。銀行口座の残高を見てコンビニのATM前で迷惑も考えず立ち尽くして絶望した。
最近遊びすぎたかもしれない。それにしたって残高二千円ってどういうこと。そして財布の中には諭吉が三枚。生きていける気がしない。
私は現実逃避するかのようにコンビニで散財した。財布の中の諭吉が二枚に減った。もうバカとしか言いようがない。
そして現在、事務所にて原澤ちゃんに泣きついていた。

「ねえ最近お客さんの入り悪くない!?私限定で千円オフとかやってよ!それか10分無料サービスとか!バック減ってもいいから!」

「不景気だからしょうがないでしょう。他の女の子が面倒なのでそういった申し出は受け付けません」

「どうしよう……全財産二万しかない……」

ここ最近本当に客の入りが悪く、以前のように稼げないのも一因だった。私が遊びすぎたせいでお金がない訳ではない。
どうしようとソファーに座りテーブルに足を乗せると、原澤ちゃんが隣に座った。

「講習してお小遣いをあげるにしてもたかが知れてますしね。京都の系列店にでも出稼ぎに行きますか?」

この店のグループは全国に系列店があってしかも結構有名かつ人気だ。最近ここの地域は不景気みたいだけど。弱小店に出稼ぎに行くよりは安心かな。でも一つ問題がある。

「そもそも交通費ねーよ」

「交通費は紹介料としてあっちの店から貰いますよ。京都の方は慢性的な女の子不足みたいなので、いっぱい稼げると思いますが」

「じゃあ行く。何日間でいくら保障?」

「ちょっと電話で聞いてみますね」

原澤ちゃんは仕事用のケータイで電話をかけてくれた。
そして電話しながら何やらパソコンを弄っている。笑っているところを見ると、何とか出稼ぎには行けるんだろう。
よかった、これで生き延びれる。笑顔で原澤ちゃんを見ると、電話が終わったようで私の隣に再度腰掛けた。

「なんだって?」

「とりあえず5日間で20万保障、勿論それ以上稼いだ場合は歩合で。それ以降は1日1万の最低保障になるそうです。寮も一部屋使っていいと言ってましたよ。名前さんのリピーター率のデータを送ったら大歓迎だと」

「え、最低保障も貰えんの?一ヶ月くらい行ってくる」

「……うちの店に打撃ありますがいいでしょう」

最低保障に1万とか太っ腹すぎる。原澤ちゃんでさえ客がゼロだったときは三千円しかくれないのに。
でも、他の女の子は最低保障がゼロとかザラだし。ある程度リピーターつけてると待遇がよくなるから、保障もらえない子は自業自得。接客がなってないか裏引きでもしてリピーター来ないだけ。

「20万は初日に貰えるそうなので、飛んだりしないでくださいよ」

「お金に困ってんのに飛ぶわけないじゃん。で、系列店もデリ?」

「あ、言い忘れてましたがソープです。大丈夫ですか?」

「まだソープ経験ないんだよね……マット出来るかな」

「名前さんなら講習受ければすぐ出来るようになりますよ」

そう言ってもらえて、私は京都に行くことを決意した。
この際ソープが嫌だとか言ってられない。大変なのはわかってるけど、普通に働くより遥かに簡単に稼げるのだから。


 * * *


そんなこんなで京都に来て5日。口座の中が潤ってきた。
12時間拘束され休む暇もなく客が来るので、保障額を超えるのは当たり前だった。
さすがソープと言うべきか、客から取る料金が高いのでバックがハンパない。
新規客が次の日にまた私を指名したり、短期で来るリピーターが増えたため、この店の店長にはずっとここに居てくれと頼まれた。断ったけど。
そしてやっと休める。今日から二日間は休みだ。私は仕事が終わって丸一日眠りこけた。
そして次の日、癒されたいとネットで京都のホスクラを探していた。
出稼ぎ先でも散財するとかバカみたいだけど、遊びにでも行かなきゃやってらんない。
デリヘルで働くより明らかに気力とか様々なものが削られる。デリってすごい楽な仕事だったんだと気付かされた。
寮からあまり遠くないホスクラを発見し、タクシーで向かう。
いつもは仕事終わりに日の出だから何気に一部に行くのが初めてで、システムとか一緒なのかなと不安になるけど気にしないことにした。
この土地とも一ヶ月もすればおさらばなのだ。恥かいたとしても問題ない。
そんな感じでクラブ周辺に着くと、すぐさまキャッチされた。

「あらぁ可愛い子ね。初回五千円なんだけど、うちの店に遊びに来ないかしら」

しかも長身のオカマに。何この人ちょう美人なんだけど。服装を見るとやっぱりスーツで、なんでオカマがホストやってんだという疑問が渦巻く。
私はすぐに興味を持った。店の名前を聞くと、行こうとしてた店とは違ったけど問題はない。

「オニーサン……オネーサンの方がいい?行く行く」

「あらホント!?嬉しいわ!私のことはレオ姉と呼んでちょうだい」

「じゃあレオ姉店まで案内してー」

もしかしたら洛山って店はホストが皆オカマかもしれないと想像してしまったけど、これも問題はない。
仕事の疲れを忘れられればなんでもいい。
5分くらい歩くと、ビルの5階まで案内され店内に入った。
黒と赤を基調に、ゴールドのシャンデリアなどで装飾された店内は高級感が漂っている。
席に通され座ると、レオ姉に名刺を渡される。

「ごめんなさいね。ちょっと指名入っちゃったから他の者が来るわ」

「大丈夫だよ。頑張ってねー」

店の中にはお客さんは一組しかいないっぽくて、落ち着いたBGMが流れている。結構静かで逆に落ち着かない。
こういった落ち着いた店は来たことがないから新鮮だ。桐皇とかひっきりなしにトランス流れてるし。

「お待たせしました、失礼します」

キョロキョロと店内を見渡していると、目の前に赤髪オッドアイ(多分カラコンだと思う)のイケメンが立っていた。そのイケメンは一言断りを入れてから私の隣に座る。

「征十郎だ」

そういって名刺を渡されたので受け取る。最初の礼儀正しさから一転し、なんか今度は上から目線。嫌な気持ちにならなかったのは、言動がごく自然だったからだろう。寧ろ最初の畏まった態度のほうが違和感あったとか初対面で思っちゃうくらいだし。

「私は名前。よろしくね」

「じゃあ名前、今夜は楽しく過ごそう」

何このイケメン。私の知ってるホストといえばバカ騒ぎしたりしょっぱなから営業ハンパなかったりするヤツだけだ。
京都のホスクラクオリティたけえ。私はいつもより飲むペースを落としゆったりと楽しむことにした。


 * * *


征ちゃんは騒いで盛り上げたりはしないものの、楽しませるのがすごく上手かった。
そんな征ちゃんを私が気に入るのは当然で、もちろん場内指名した。

「征ちゃんマジ私の王子様」

「王子様か……初めて言われたな。よく魔王だとかは言われるけど」

その言葉に吹き出す。一瞬魔王っぽい征ちゃんを想像したらかなり似合っていた。逆に白馬と白タイツとかぼちゃパンツは似合ってなかった。

「ヤバい京都に永住したくなってきた」

「京都の人間じゃないのか?」

「東京からこっちまで一ヶ月間出稼ぎー」

「僕も東京からこっちに来てるんだ。僕と玲央は今度歌舞伎町の系列店に行くから、また会う機会があるかもしれないね」

洛山東京に移転しないかなーなんて思ってると、なんとも嬉しい情報を教えてくれた。
絶対行く!と言ったら征ちゃんは笑った。夜の世界に絶対なんてない。社交辞令や嘘で塗り固められているこの世界では、客の言うことさえ信じちゃいけない。

「そういえば僕の名刺は渡したけど名前の連絡先は聞いてなかったね。東京に行ったら連絡するから教えてくれるかい?」

「うん、もちろん」

スマホで連絡先をIC送信すると、征ちゃんは私にワンギリとメールをしてくれた。
名刺から入力する手間を省いてくれたんだろう。やっぱりこういうちょっとした気遣いが王子様っぽい。
私が東京に戻る前に、また何回か来よう。
ここまで気に入ったホストが出来たのは大輝以来で、なんだかすごく楽しい気分になれた。
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