無事に付き合ってた女とは別れた。
「ってことで付き合うか」
「誰と」
「お前とオレ」
いつもの如くダラダラとサボっているときにそう伝えれば、彼女は目を見開いた。この前から驚きすぎじゃね。
「エッまたセンパイにボコスカやられてわたしの名前と顔忘れちゃったりするんじゃね?」
「嬉しくねえのかよ」
「嬉しいけどそれ以上に怖い」
彼女は複雑そうだ。そりゃそうだ。付き合ってる女の顔と名前忘れた挙げ句別れましたと聞かされたばかりだ。オレ一応中身は成人してんだけどな。考えが足りない。
「お前のこと忘れるわけねえだろ」
十数年間嫌というほど側に居た女だ。十数年後からその先も側にいて欲しいと願い、こうして不可思議な現象さえ受け入れてるオレをナメんじゃねえ。
「お前の処女を奪うのも、泣き顔を見るのも、結婚すんのもオレだ」
リョータがコイツの処女を貰い、嫁にももらい、そしてオレが見たくてしょうがなかったのに一度も見ることが叶わなかったコイツの泣き顔さえリョータは見ている。オレは今まで気付かなかったが、かなり根に持っていたらしい。
オレの言葉に更に目を見開いた彼女は笑えるほどブサイクでそんな所も好きだと実感した。
「え、何言ってんのどうしたの頭打ったの?」
「好きだ。結婚を前提に付き合ってくれ」
「祥吾のことは好きだし付き合いたいけど中学生で結婚とか考えらんないし、わたし貧乏はヤダ」
「おいなんでオレが将来貧乏なの前提なんだよ」
確かに中学生に戻る前のオレはあまり金がなかった。エッそんなクズ男さ滲み出てんのかよオレ。
彼女はだって、と笑いを堪えながら言った。
「祥吾の素行でそのまま成長したら将来まともに就職できるとは思えないよ」
ごもっともである。だが彼女は自分のことを棚にあげ過ぎだ。
「お前も高校も行かずフリーターやってキャバや風俗で働いて落ち着いて正社員になったと思ってもブラック企業に就職してそうだよな」
「すっげーボロクソいうな!?」
「お前が苦労しないようにこれから頑張るからよ、とりあえず頷いとけ。オレにショーライセーがないと思ったら捨てろ」
戸惑いながらも頷いてくれた彼女に、とりあえずサボるのやめるとこから始めるかと伝えると、「マジで言ってたの」なんて驚かれた。
彼女を逃さないようにここまでやろうとするこの原動力を、愛と呼ばずしてなんて呼べばいいんだ。