彼女にリョータと結婚すると告げられてから早数ヶ月。オレは気付いたことがあった。それはオレも彼女の事をいつの間にか女として愛していたんじゃないかってこと。これは自分でも驚いた。
 彼女はオレの理解者であり、唯一甘えられる相手であり、一番仲の良い友達であり、都合のいい女でもあり、オレの支配欲のようなものを満たす相手でもあった。
 恋愛感情だけはないと自信があったのだ。それがどうだ。寝る前、ふと彼女を思い出すと涙が溢れる。オレから奪いやがってとリョータを憎むも、これから彼女を幸せにする男だ。憎み切れなかった。
 中学から10年以上も彼女を振り回し都合よく扱い不幸にしていたオレが出来ることと言えば、己の感情を抑えて彼女へおめでとうと言ってやることではないのか。
 こんな風に相手の為に自分が我慢しよう幸せを願おうとすることは人生で一度もなかった。これが愛なのか。哲学ってムズカシーな。


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 結婚式の招待状が届いた。招待状の中には色気もへったくれもない無骨な付箋が貼り付けられている。

"黄瀬と仲良くないのは知ってるから、ムリに来なくてもいいよー!"

 付き合ってはなかったから元カレではない。が、10年以上もオレの事が好きだったのはリョータも知ってんだろ。オレ呼んでいいのかよ。オレに対して配慮する彼女は何処かズレている。
 出来ばリョータと彼女のツーショットだなんて見たくない。でも彼女と会えるのはこれで最後なのだ。結婚した彼女とオレとが会うことをリョータが許すとは思えない。選択肢は最初からひとつしかないようなモンだった。


 結婚式に着ていけるスーツなんてオレが持っているはずもなく新調した。着心地の悪いスーツに身を包み、御祝儀もキチンと持った。痛い出費だ。彼女に見栄を張った事なんてなかったが、御祝儀は相場よりもかなり多く入れた。

 チャペルは思ったよりもこじんまりとしていた。辺りを見渡しても、新婦側の人間も新郎側の人間も最低限といった様子。新郎側だろう、キセキの奴らも来ていた。ゲッ最悪。そう思ったら赤司と目があった。しかもこちらに向かって歩いてきた。

「灰崎、久しぶりだね」

「あー、ヒサシブリ」

「黄瀬と彼女が結婚するだなんて、びっくりしたよ」

 だって彼女、中学時代から灰崎が好きで何回も告白してるっていう有名人だっただろう? そう言った赤司はこちらの様子を伺うような表情だ。そして彼女への軽蔑が見てとれた。一度も応えなかったから他の男に行くのは当たり前だろ。自嘲気味にそう言うと、背後からも声がして方がはねた。

「お久しぶりです」

 勢いよく振り向けば、テツヤがいた。
 テツヤは中学時代から変わらず、無表情だ。

「黄瀬君から彼女の話は度々聞いていたのですが、ついに灰崎君を諦めて黄瀬君の所へ行ったんですね」

 黄瀬君はずっと彼女の事を支えていたみたいですし、お二人共これから幸せに家庭を築いていって欲しいですね。テツヤはオレへの牽制のように言う。そんなん必要ねェよ。なんて思いながらそーだなとだけ言葉を返した。

 
 式が終わり、披露宴会場へと移動する。
 オレがいつしか珍しくベッドの中で可愛いと思った仕草や表情、そのどれよりも花嫁姿の彼女は綺麗で可愛くて胸が締め付けられる。胸というよりも、喉の辺りがギュッとする感じだが。
 披露宴ではリョータと彼女の馴れ初めを聞かされた。最初彼女が呼び出した際、リョータは告白だと勘違いしたらしい。彼女の"友達"が部活に来ているか確認したかっただけだったんスよーオレ告白だってちょっとドキドキしてたのに、めっちゃ恥ずかしくないッスか?そう笑いながら言ったリョータに笑いが起こる。
 あぁ、オレが部活辞めた頃か。心配した彼女が家の前で数時間待っていた事もあった。すげえオレのこと考えてくれてたよな。図らずもオレがキューピットかよ。……やり直してェな。
 もやもやとした心を持て余していると、彼女が目の前に来ていた。どうやら挨拶に周っているらしい。

「来てくれてありがとーね」

「おう。めっちゃキレーじゃん」

「まじ!?嬉しー!……とか喜んでるところにドレスだけだけどなとか言うんでしょー」

「いや、お前が。ちゃんとキレーだよ」

「エッ……ありがと」

 出来ればおめでとうとはあまり言いたくない。だから彼女を褒めることにした。彼女はオレが褒めるとすげえ嬉しそうに笑った。オレが気分で珍しく飯を作ってやった時と同じ表情だった。

「記念に写メでも撮っとくか」

「おっ、いいね!撮ろ撮ろ」

 オレのスマホを奪った彼女は、彼女の親戚であろうおばさんによろしくと手渡し、オレの横へと並んだ。
 シャッター音が何度か響き、スマホを返してもらうと満面の笑みの花嫁と無愛想な男が写っている。
 電源を落としポケットに突っ込むと、彼女はじゃあいくねと去って行った。


 帰り道、今日撮った写真を見返し、人生やり直せたら彼女と結婚するのはオレかもしれないなんてくだらない絵空事を妄想しながら歩いていると、悲鳴とブレーキ音が聞こえ、身体に衝撃が走った。
 視界に入ったのは赤いランプがつく歩行者用の信号。あぁくだらないことを考えるあまり、赤信号にも気付けなかったのか。オレは意識を手放した。

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