先程去り際に放たれた彼女の言葉を、オレはまだ理解出来ないでいた。
「わたしさー、黄瀬と結婚することになった」
だからもう祥吾の事は諦めなきゃ。今までうっとおしかったよねごめん。そう言った彼女に、呆気に取られて喉に何かが突っかかったように声を出せないでいると、彼女は弱々しく笑い、去っていってしまった。
リョータと彼女は中学の途中頃から、いつの間にか仲良くなっていたのは知っていた。何度も好きだと伝えて来る彼女にいつしか「つーかまず処女とかメンドクセェし」と何も考えずに言った言葉を鵜呑みにし、リョータに処女を捧げた事も。
オレは彼女を女として好きな訳ではない。ずっと、友達として側に居てくれればそれで良かった。まぁここ数年はヤることはヤッてた訳だが。
そんな彼女がリョータに処女をあげたと聞いた時は、何故か若干の後悔とオレの言葉で好きでもないヤツにヤらせるとかどんだけだよって呆れと嬉しさと、複雑な心境だったのを今でも覚えている。
ハゲてもデブっても何があっても祥吾の味方だから! 今まで忘れていた、中学時代に言われた言葉が蘇ってきた。
「あれは嘘だったのかよ」
オレの部屋の香りをかき消すような彼女の残り香に包まれながら、この絶望感によく似た感情を持て余した。