※別軸の話
息を乱しながら飛び起きた。ここ最近夢見が悪すぎる。祥吾とわたしは中一の頃から付き合っていて、祥吾がわたしにベタ甘でとにかく優しくて、そんな光景を無様に眺めるだけの悪夢だ。
涙を拭ってスマホで時刻を確認すると昼はとっくに過ぎていた。仕事が休みだからって寝すぎてしまった。
後で行く。その四文字だけのLINEを見て、映画を見に行こうと頭に浮かんだ計画を消し去った。夢の内容を引きずっていて何も食べる気が起きず、ゴロゴロとしているとドアをノックする音が聞こえてきた。
「はーい」
「うお、お前テンション低くね」
「夢見が悪すぎて死にそう」
「これでも食って生きろ」
ズカズカと我が物顔で我が家に入ってきた祥吾はビニール袋を渡してきた。中を覗くとハーゲンダッツの苺味が二つ入っていた。
「神すぎる」
「おい、一つはオレのだからな」
一つでも嬉しすぎる。たまにこうやってアイスの一個でも貰うだけでこんだけ嬉しくなれるんだからわたしはちょろい。
祥吾がベッドにもたれ掛かって床に座ったので、わたしも隣に腰をおろしてアイスを取り出す。二人で無言でアイスを食べていると、祥吾が問いかけてきた。
「で、どんな夢見たんだよ」
「わたしと祥吾が中一から付き合ってて、祥吾がわたしにベタ惚れな夢」
「それのドコが夢見悪いんだよ。ふざけんな出演料とんぞ」
お前ホントにオレの事好きなのかよ。そう問いかけてきた祥吾に、当たり前だと頷く。
「祥吾がわたしと付き合うことも、ベタ惚れになることも絶対ないのに、そんな様子を無様に眺めるだけの夢だよ? 悪夢でしかないし」
「お前そんなネガティブだったか? この先どうなるかわかんねえじゃん」
笑い始めた祥吾に、絶対そんな事にはならないと言い切った。
「だってさ、今までの関係性振り返ってみて? 万が一祥吾がわたしに惚れたとして、今更付き合おうだとかベタ惚れなの表に出そうだとかおもう?」
「思わねえ」
「でしょ」
「イチからやり直せるってなったらそれはそれで態度やら改めるかもしれねぇな」
「でしょ! 今ここにいるわたしは絶対祥吾に優しく愛してなんてもらえないんだよ?」
「何言ってんだよたまには優しくしてやってんだろ」
今日だってアイス買ってきてやったじゃねえか。そう言った祥吾にありがとうごちそうさまー。と伝える。そういうことじゃないんだよとは言えなかった。
確かに情のようなものはわたしに対してあるかもしれないけど、それはわたしが好きだからとか愛してるからとかじゃない。たまには優しくしてやるかという祥吾の気まぐれでしかない。
「なんかもう疲れたからわたしを愛してくれる男と結婚でもして祥吾のこと忘れたい」
「おい、お前が結婚したら手作り唐揚げ食いたくなったときに誰が作って誰が性欲処理の相手になんだよ」
「祥吾ってクズすぎだよね。でも好き」
「オレのことだーい好きな名前チャンがオレを忘れて他の男と結婚するなんてぜってー無理だな」
無理だなんてわかってる。でもどう頑張ったってわたしと祥吾の星は重ならないのだ。疲れた。疲れた。誰か助けて。