幸せの絶頂。彼女との結婚式が終わり、初夜を迎えたオレは人生で一番気分が高揚していた。
 婚約が成立するまで、彼女はただの友達だった。そう、付き合ってもいない女にプロポーズしたのだ。オレなら幸せに出来ると何度もしつこく口説き落とした彼女が公的にも世間一般的にもオレの物となったのだ。高揚しないはずがない。
 勿論彼女の事は最初友達としか見ていなかった。彼女は報われない恋をしていたから、友達として支えていた。彼女に処女を貰って欲しいと気まずそうに頼まれたときも、大事な彼女がそう望むならと友達として頼みを聞いた。彼女が報われればいいと願っていた。
 それがいつしか何でアイツなんかが、オレなら幸せにしてあげられるのに、オレを見てよ。そんな気持ちに変わっていった。
 結婚式には新婦側に彼女の想い人だったショーゴくんが来ていた。招待状出してもいい?彼女の問いかけに頷いた記憶はあるが、まさか来るとは。ショーゴくんと並んで写真を撮ってもらっている彼女の表情はふっきれているように見えて安心した。

 新婚初夜、付き合う段階を飛ばしたからか「一回ヤッたことあるけど、なんか今更改めてとかめっちゃ恥ずかしくない?」そう照れる様子を見せる彼女に余計昂って強引に、優しく丁寧に、色んな方法で彼女を抱いた。
 オレの物となった彼女を抱きしめて眠りにつく。幸せの絶頂だったのに、目が覚めたら高校二年生に戻っていた。

 そんな、なんで、彼女に電話しようと高校時代に使っていたガラケーの連絡先を探す。すぐに彼女の名前を見つけて通話ボタンを押すと、何コールかの後彼女の声が聞こえた。

「黄瀬?どーしたの。久しぶりー」

「名前ちゃん、今すぐに会いたい」

「えっ、まじどーした?黄瀬って確か今神奈川だよね?」

「今から行くから、お願いだから、」

「わかった!わかったから落ち着けよ」

 そうだった、今でこそ落ち着いているが、この頃の彼女は少し口が悪かった。可愛いのに口が悪くて勿体無いとしょっちゅう言っていた記憶がある。懐かしいなんて思いながらも身体の震えは止まらない。約束を取り付け電話を切ると、必要最低限の身支度を整えて家を飛び出た。


 待ち合わせ場所に辿り着くと、彼女はすでに居て手を振ってきた。走って側に行くと笑われた。

「黄瀬って大型わんこみたいだよねかわいー」

 少し若々しい彼女の笑顔が変わらなくて泣きそうになりながら抱きしめると、彼女はホントどーしたと戸惑いながらもやんわりと身体を離そうとした。

「話聞いて欲しいの? どっか店入る?」

「人目があるところではちょっと話せないッス……」

「……じゃあうちでいい?」

 
 少し難しい顔をして考える素振りを見せた彼女は、着いてきてーと歩き始めた。



 彼女の部屋で、オレ自身に起こった事を説明した。彼女と結婚式を挙げた日に眠りについたら高校生に戻っていたと。彼女は夢見てまだ寝ぼけてるんだよ、そう笑った。

「夢じゃない」

「夢だよ、だってわたしが祥吾を捨てて黄瀬と結婚なんて考えらんないもん」

「ショーゴくんが振り向いてくれなくて辛い出会わなければよかったって! この気持ちを捨てたいって! この頃の名前ちゃんもしょっちゅうオレに言ってたじゃないッスか!」

「? 祥吾と付き合ってて不安はあまりないし、やっぱり夢だったんだよ」

「ショーゴくんと付き合ってる? どういうことッスか」

 彼女の言葉に余計頭が混乱する。彼女は若干面倒くさそうに中学時代からのオレたち三人の関係性を説明しだした。

「だから、祥吾が嫌がるからなるべく黄瀬とは個人的に連絡取らないようにしてたし、黄瀬だってショーゴっちって懐いてて祥吾が嫌がるならって言ってたじゃん」

「そんな、そんなはず」

 今までの事が夢で本当は友達とその彼女という関係性だけだったと言うのか。オレと彼女は友達でさえなかったと言うのか。祥吾が振り向いてくれないとしょっちゅう電話してきてわざわざ時間を作ってまで大事な友達を慰めてた事実はなかったと言うのか。そんなの、夢だなんて受け入れられるはずないじゃないか。

「……イヤだ」

 彼女を失うくらいなら死んだ方がマシだ。最近は仕事も嫌な依頼ばかりで、バスケも中々やる時間がなくて、でも彼女と一緒に居る時間だけは楽しかったのに。

「これから、名前ちゃんの為なら嫌な仕事だって笑顔で頑張れると思ってたんスよ。よし頑張ろうって、なのに、オレ、最近生きてもつまんないなーって、それが名前ちゃんがプロポーズ受けてくれて、オレの為にもショーゴくんの事はすっぱり諦めるって笑ってくれて、この先名前ちゃんが一緒に居てくれないなら、オレは生きて行く意味あるんスか?」

「黄瀬、」

「オレのこと友達とも思ってくれない名前ちゃんは、オレが死んだって悲しんでなんかくれないんスよね。それは嫌だなあ。でも、やっぱり名前ちゃんが一緒にいてくれない未来に向かって生きるなんてオレには無理ッス」

 押しかけてごめんなさい。立ち上がろうとすると、彼女に腕を掴まれた。

「まさか、本当に死ぬとか言わないよね?」

「さあ?オレの事は気にしなくていいッスよ」

 
 投げやりだ。なんの気力もわかない。寝たら戻れるかもしれない。これはただの悪い夢だ。もしも戻れなかったら死んでしまおう。彼女はオレの様子に少し怯えた様子を見せながらも言葉を発した。

「っ、死ぬなんてダメだよ」

「じゃあ! どうしたらいいんスか! もし戻れなかったら死ぬしかないじゃないッスか!」

「夢に引っ張られて、死んでどーすんの!?」

「夢じゃない!もし夢だったとして、現実でのアンタはショーゴくんのモノなんだろ!? オレには耐えられない!」

 彼女が報われれば、そう願っていたオレはすでに過去になってしまった。

「オレが死なないから側にいて、そう言ったら名前ちゃんはショーゴくんと別れてオレのモノになってくれるんスか?」

 彼女がどれだけショーゴくんを想っていたかはオレが一番知っている。せっかく付き合っているのに別れるなんて出来ないだろ。やはり彼女の唇から肯定の言葉は漏れない。掴まれていた腕を振りほどいて彼女を押し倒して覆いかぶさった。

 彼女はオレの行為に声を押し殺して泣いていた。ごめん、オレなら幸せに出来る幸せにするって言ったのにごめん、そんな顔オレならさせないって思ってたのに。血が滲む彼女に今回の初めてはこんなんでごめんと心の中で思いながら泣いた。
 悪夢なら早く醒めてくれ。
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