高校三年生になった。前回は中退したが、今回は無事に卒業出来そうだ。割といい所への就職も決まった。順風満帆だ。
そういや今度中学の同窓会やるらしいぜ。風呂上がりにビール片手にテレビを見ていた彼女にそう告げると、ピクリと肩を揺らし、そして笑った。
「わたしいかなーい」
「はぁ?お前も一緒に行こうぜ」
「わたしに仲良い女友達いないの知ってるでしょ」
「男友達はいっぱいいただろ」
「可愛い彼女が他の男と盛り上がってても祥吾は妬いてくれないの?」
「ぜってー妬く」
食い気味に言ったオレに彼女はでしょ! と笑ってだから行かないのとビールを飲み干した。
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結局彼女は頑として同窓会へは行かなかった。若干後ろ髪引かれつつも同窓会へと足を運ぶと、バスケ部だった面々から次々と声をかけられる。前回だったらこうは行かねえな。なんて思っていると、リョータが近寄ってきた。
「……ショーゴくん」
何か違和感を感じた。が、その正体はすぐにわかった。あのウザいくらいのテンションの高さがナリを潜めている。
「おー、久しぶりだな。元気だったかリョータァ」
「元気そうに見えるッスか」
「見えねェな」
「、名前ちゃんは元気ッスか?」
「元気だけどよォ、なんでお前が名前のこと気にすんだよ」
そんなに関わりねえだろ?そう言ってから、リョータが名前ちゃんと彼女を呼んだ事に違和感を覚え、どくどくと心臓が高鳴った。
コイツは、彼女の事を名字さんと呼んでいたはずだ。いやまて二回目ではオレの事をショーゴっちと変な呼び方をしていた。どういうことだ。血の気が引くのを感じながらリョータを見ると、リョータはギロリと睨みつけてきた。
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抜けよう。そう言うリョータに頷き、近場の公園へと移動した。
リョータは俯きながらボソボソと何かを言っている。オレの知っているリョータと違いすぎてドン引きだ。
「なんで、なんで、ショーゴくんはなんなんスか」
「おい」
「っ、あの、ショーゴくん聞きたい事があるんスけど」
「なんだよ」
「なんでショーゴくんは名前ちゃんと付き合ってるんスか?」
「なんでって、そりゃ好きだからに決まってんだろーが」
オレの返答に納得出来ないといった表情のリョータに今度はオレが問いかける。
「なんでそんなに名前の事気にするんだよ。お前ら一時期ちょっと話してただけだろうが」
「そんなの!」
いきなりリョータが大声を出し、思わず肩を揺らしちまった。だがリョータは気にした様子もなく薄暗い公園内で声を張り上げる。
「ショーゴくんが振り向かないから! オレが口説き落として奥さんにしたのに! こんなの! 可笑しいじゃないっスか! ショーゴくんは名前ちゃんに振り向かなかった! オレのなのになんでショーゴくんが名前ちゃんと付き合ってるんだよ!」
「……いつからだ」
リョータはオレと同じように不可思議な人生やり直しを経験したんだろう。だが疑問が残る。コイツはいつからやり直してるんだ。中学の頃ではないはずだ。
オレの問いかけの意味を理解したのか、リョータは顔を歪めて言った。
「気付いたら、高校二年生に逆戻りッスよ。ショーゴくんもなんでしょ、なんで」
「オレは中一からだ。お前が名前にプロポーズなんてするから、オレは自分の気持ちに気付いたんだよ。結婚式の帰り道に事故って気付いたら中一だった。だから今はアイツを大事にしてる」
「なんで、あんなに泣かせてたアンタが名前ちゃんと居て、オレは、」
「リョータァ、オレはな、始めっからお前が気に食わなかったんだよ。途中からバスケ部入ってきたと思ったらオレと似たようなスタイルで、それを理由に暇つぶしに楽しんでたバスケ部追い出されて。挙げ句の果てに名前と結婚だァ?名前の親友ですみたいなツラして、そういうしたたかなトコがクソうぜえ」
だからお前がいくら悲壮感出したところでオレは罪悪感感じて名前を手放したりしねぇよ。そう言うとリョータは無表情になった。
「オレだってアンタのこと心底気に食わないッスよ。あんだけ名前ちゃんのこと軽く扱っといて今更大事にしてるなんて笑わせんじゃねーよ!」
リョータは怒鳴ったと思っていたら砂利に膝をつき、項垂れて泣き始めた。
「オレだって、大事にするって約束してたのに、幸せにするって、笑顔にしてあげるって、なの……オレが、泣かせた。なんで今回オレが泣かせる立場にならなきゃ、」
しゃがみ、嗚咽を漏らすリョータの髪を掴み顔をあげさせる。
「泣かせるって何したんだよ」
事の次第によっちゃ顔面潰してやろうか。そう思ったもののすでに涙でグチャグチャの顔のリョータを見ていたらその気は失せた。
嗚咽混じりに説明しだしたリョータの話を黙って聞き、終わった後は二度とツラ見せんなとだけ吐き捨てその場を後にした。
自分の家へは帰らず、彼女の家へと帰ると、笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりー!同窓会どうだった?」
「リョータに捕まって抜けて公園で話し込んでたから同窓会全然参加できてねェ」
「へえ、じゃあ何も食べてないの?わたしカップ麺で済ませちゃったよ」
リョータの名前を出しても気にした様子も見せず、ショーゴもカップ麺食べる?って台所まで行こうとした彼女を背後から抱き締め腕の中に閉じ込める。
「カップ麺じゃやだ?ワガママだなー。冷凍ご飯チンしてお茶漬けの方がいい?」
「名前」
普段お前だとかテメェだとかしか呼ばないオレが名前を呼んだからか、彼女の肩が強ばる。
「高校卒業したら、結婚して欲しい」
婚約指輪は用意出来そうもねェけど、結婚指輪は奮発する。そう告げると彼女が振り向こうとした。が、顔を見られるのは困る。
「いいからこのままでいろ。どーなんだよ。オレと結婚すんのか、しないのか」
ぽたりぽたり、涙が彼女のつむじへと落ちてしまった。6年近く、オレは頑張っただろ。不安を振り切ってやることやってきただろ。前回は彼女を都合よく扱う最低最悪のクズ男だったが、今回はなんも間違えなかっただろ。だから、他の男のモノになんてならずオレの側に居てくれんだろ。今回もリョータが初めての相手だとしてもオレと結婚してくれるだろ。祈るような気持ちで返事を待っていれば、彼女の周りの空気が揺れた。
「するに決まってんでしょ」
笑顔で振り返った彼女はオレの顔を見ると目を見開いた。
「祥吾泣いてんの!?レアすぎじゃね!?」
初めて泣き顔見たんだけど!ムードもへったくれもなくキャッキャと喜ぶ彼女を見て、まぁ悪くはねェとオレも涙を拭って笑った。