オレは高校生になった。進学先は霧崎第一高校を選び、真面目に取り組んでいたオレは見事に受かった。高校ではバスケはやらずに、バイトに励むことにした。
対する彼女は、やはり前回同様進学せずにフリーターになった。
彼女との関係は良好なまま、着々と日々はすぎていく。上手く行き過ぎていて怖いくらいだ。
そして問題といった問題もなく、高校二年生となって二ヶ月が経った頃。バイト終わりの帰宅途中に彼女から一本の電話が入った。
「祥吾、ごめん、ごめん」
電話口でもすぐわかる程の嗚咽を漏らしながら彼女は訳を言う訳でもなく謝り続けた。どうした、何があったと問いただしても返ってくるのはごめんの一言。今から家に行くと言うと、来ないで!と怒鳴り声の後に通話終了の音が聞こえた。
人生をやり直す前も、やり直し中の今も、彼女の泣き声なんて聞いたことがない。急いで彼女の家へと向かった。
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まだ寒いというのに部屋の窓は全開で、冷え切った部屋で風呂に入ったのか彼女は髪を濡らしたままさめざめと泣いていた。
オレが何を問いかけてもごめんとしか言わない彼女に少し苛立つが、ここでキレでもしたら今までの苦労が水の泡だ。耐えろオレ。
何十分か、何時間か、時間の感覚がなくなる程彼女の泣いている姿を眺めた。あんなに望んでいた泣き顔なのにちっとも嬉しくねえ。そろそろ笑った顔見せてくれてもいいんじゃねぇの?そう思っていると、彼女がポツリと言葉を零した。
「ひどい、許せない、ごめん」
泣きながら、掠れた声でポツリと漏らす彼女に理由を問うてもたぶん答えてはくれないだろう。オレに対してではないはずだ。多分。
「おい、泣きすぎて疲れただろ。とりあえず一緒に寝るか」
寝て起きたらちょっとは落ち着くんじゃねぇの? オレの言葉に頷いてくれると思っていたが彼女は首を横に振った。
「ごめん、一人になりたい。帰って」
「泣いてる彼女置き去りにする程クズじゃねーよ」
最近は。そう付け足そうと思ったが浮気してたとか勘違いされたら困るからやめておいた。
少し笑いながら言ったオレが気に食わなかったのかなんなのか、彼女は突然声を荒げた。
「帰ってよ! 祥吾だってきっと他の男にヤられたわたしなんて嫌いになるんでしょ!」
彼女の言葉の意味を理解した瞬間、ぐわりと目眩が起きた。また泣き出した彼女の肩を掴んで揺さぶる。
「おい、もちろん合意の上じゃないよな? 誰だよ、誰に無理矢理された!?」
そう言い終わると我に返った。前みたいに乱暴に扱うなんて二度としないって心に決めていたのに、力加減もせずにやっちまった。悪い、肩痛かったよな、怒ってねぇからとりあえず落ち着いて話しようぜ。自分に言い聞かせるように彼女にそういうと、今日初めて視線が交わった。
「わたしのこと嫌いにならない?」
「なるわけねぇだろ」
実際意識手放しそうになる程ショックだが。それは心に秘め彼女を抱きかかえてベッドへと移動し、電気を消した。
安心させるように抱き締めて背中をポンポンと叩けば、彼女は泣き疲れていたのかすぐに眠りに落ちた。
彼女が傷付いているというのにオレが考えることといえば、大事にしたいだとか抜かしてないでさっさと突っ込んどきゃよかっただとかそんな後悔ばかりだった。
今回はリョータじゃないだろう。リョータじゃなければまだいい。リョータじゃなければ最悪合意でヤッてても気にすることじゃねえ。そうショックを受けた心を隠すように思考を塗り替えていく。
そうだ、彼女の初めてが誰かなんて気にする必要はない。処女メンドクセェし。オレと結婚して側にいてくれればそれでいい。
最終的にそう結論付けてオレも眠りについた。