居候し始めて少し経った頃。
今日は親友と親友の後輩二人、それに親友の同級生の敦の五人で宅飲み中だ。
お風呂入ったあとだったからすっぴんスエット。敦来るってわかってたら化粧してた。
敦とは和成と知り合う前に一回だけ会ったことがある。
敦はギャ男でオタク、おまけに腐男子という私と話の合う可愛いイケメンだ。
何時間もワイワイと飲んでいれば、酔いは回ってくる。
私は敦に膝枕してもらいながらつまみのチョコを貪っていた。
「名前〜、俺にもチョコちょーだい〜」
「チョコだけにちょこっと?」
「あはは、つまんないやそれ〜。いいから早くちょーだい」
渾身のギャグを真顔でつまんないと言われても大して気にしない。
包みを剥がして手を伸ばし敦の口にチョコを運ぶと、指ごと食べられた。んで、チロチロと舐められる。
「敦くすぐったい」
私の言葉にすぐに指を離してくれた敦は、チョコを美味しそうに食べながら私の頭を撫で始めた。
後輩二人と親友はギルギアをやっていてこっちの様子は気にも止めない。
「んー、タバコ吸いたい」
起き上がろうとすると頭を押さえつけられる。
「俺の膝横んなったまま吸っていいよ〜。でも火種落とさないでね」
そう言って近くに放ってあったタバコを一本取り出し、何故か敦が咥えて火をつけた。
「ゴホッ、名前、強いの吸ってんね」
そう言いながら火のついたタバコを渡してくれたので、そのまま吸う。
「敦はタバコ吸わないの?」
「んー、学校で吸えないし、1日に2〜3本だよ」
「何吸ってんの」
「アイシーン」
「かわいいね」
「ありがと〜。名前に可愛いって言われると嬉しいかも」
そう言って敦ははにかんだ。まじなにこの可愛い子。
「まじめっちゃかわいい。弟に欲しい〜」
私の頭に置かれた敦の手を握り、デレデレしていると、ケータイから着うたが流れた。この曲は和成指定の着信音だ。
敦が取ってくれたので、タバコを消し画面を開くとメールではなく電話だった。
「もしもーし」
「もしもし?俺だけど。今何してんの?」
「今ねー、ホナミとその後輩二人と敦と宅飲みちゅうー」
「敦って?」
「ホナミの同級生。和成と同じ学校だから知ってるかと思った」
「後輩二人っつーのは?男?」
「うん」
「ホナミに俺も行くっつっといて」
「わかった。じゃあね」
なんだよ和成も来るのか。最近色々とあるし(主にレイナちゃんの件での私の葛藤だけだが)あまり会いたいって気分じゃなかった。
騒いでる親友に大きな声で告げるとわかったーとだけ返ってきて、また親友たちはゲームし始めた。
「名前〜誰来んの?」
「敦と同じ学校の三年だよ」
「ふ〜ん」
敦はまた私の頭を撫で始める。
騒がしい三人とは別に、ゆるやかなひと時をしばらく敦と過ごしていると、部屋のドアがあいた。
「よっ!」
コンビニ袋を手に持った和成はチラリと私を見て、皆に挨拶してから側までやってきて腰を降ろす。
「膝枕俺がしてやるからこっち来いよ」
「んー、そろそろ酒飲むの再開するし起きる」
起きてタバコに火をつけ、そこら辺に転がってたチューハイのプルタブを持ち上げ……ようとしたけどタバコ持ってるし酔いもまだ回ってるしで持ち上がらない。
それに気付いた敦が私から缶を取り上げ、開けてくれた。
「はいど〜ぞ」
「ありがと」
受け取った缶に口をつけ、グビグビ飲んだりタバコ吸ったりを繰り返してると、どうやら敦と和成は自己紹介してたみたいで少し打ち解けてた。
「名前、サラダスパ食う?何個か買ってきたぜ」
「あ、まじ?ありがと食うー」
「お前は?」
「あー、俺は……、あ、名前それ全部食える〜?」
「んー、わかんない」
「じゃあ俺と半分こしよ〜。先輩、俺名前と食うんでいいですよ」
「ふーん、そっか。じゃああっちのやつらにやっちゃうな」
コンビニの袋を持った和成は、どうやらゲームに混ざるらしい。
サラダスパは、食べたくなる度敦にあーんしてもらい、食べ終える頃に和成は他の三人を引き連れ戻ってきた。
「大富豪やろうぜ」
和成はもちろん罰ゲームつきなと付け足した。
***
幸運なことに私と敦は一回も大貧民にならなかった。
親友と後輩二人は焼酎ストレートでぶっつぶれ、床で寝ている。
和成もかなりの量を一気飲みしていた。気持ち悪いとトイレに行き、そのまま戻ってこない。
私と敦はそれを免れたとはいえ、かなりの量を飲んでいる。潰れるまでは行かずともただの酔っ払いだ。
ほとんどの人間が潰れてるし、電気つけてても意味ない。豆電球にしておいた。
「やば、頭ほわほわする〜。名前一緒に寝よ〜」
「んー、寝よっか」
セミダブルのベッドは空いている。一緒に潜り込むと、私の手を握った。所謂恋人つなぎというやつだ。
「名前、俺の指舐めて」
「指?」
「そう」
繋いでいる手のは反対の手が私の顔に近づく。そして人差し指が唇に当たった。
ちろりと舐めてみると、少しチョコみたいな味がした。めっちゃチョコ食べてたもんね。
敦が溜息をつきながら私の口内に指を挿し入れてくる。
お願いされた通りに暫く舐めていると、部屋のドアが空き、和成が入ってくる。敦は指を引き抜いた。
「俺もトイレ行ってくる〜」
「んー」
入れ違いのように敦が部屋を出ると、和成がベッドの横に座った。
「名前ちゃーん、起きてる?」
「うん」
「ちょっと起きてくんねぇ?」
言われた通り起き上がり、ベッドから足を降ろすと、和成は抱きついてきた。
「俺珍しく酔っ払っちゃったかも」
「だいじょーぶ?」
「だいじょーぶじゃねえかも」
「水飲む?」
「いい。名前、チュー」
甘えるような声で私を見つめる和成。
私を抱きしめたままキスをしてきた和成は、何度か舌を絡めると唇を離した。
「あ、敦だいじょーぶかな」
「あいつじゃなくて俺の心配して」
「和成のこと心配してるよ」
「名前かわいい、すっげーかわいい」
ヘラッと笑った和成は私にまたキスをした。