大晦日、翌日から休業日のためいつもより大変だった仕事を終え、ショーゴの家へと帰る。
手には、クレープやソフトクリーム、惣菜などが沢山入った袋をぶらさげている。
クレープの生地や、カットしてあったフルーツはあまったら捨てるだけだし、ソフトクリームの機械も清掃する前に自分で持って帰る分を作っていいと言われたのだ。
ソフトクリームはジュース用のカップに作って冷凍庫に入れておいたから崩れたりすぐに溶けたりする心配はない。
働いてる店ではフルーツとソフトクリームをブレンドする機械があって、それで作るバナナやイチゴのソフトがとても好きだった。
惣菜はよく他の売り場の人があまったやつをくれるから、だいたいつまみには困らない。
美味しそうなものがいっぱいで気分はルンルンだ。
家に着いてとりあえず食べ物などを冷蔵庫にしまった。
一服してからお雑煮作りに取り掛かる。
年越しそばのつゆもお雑煮の汁で代用出来るし早く作っておくに越したことはない。
おせちはショーゴが百貨店で注文しているらしいから今日持って帰ってくるだろう。
実家に帰ることも考えたけど、距離を考えたらそんな気はすぐに吹き飛んだ。
お雑煮を作り終える頃、ショーゴが大荷物を持って帰ってきた。
「おかえりー。なにその荷物。すごっ」
「ただいま。すげえ重かった」
ショーゴは冷蔵庫に色々としまいはじめる。
ビール、生ハム、チーズ、ローストビーフ、おせちの重箱。
冷蔵庫はすぐにパンパンになった。
「ウマい焼酎とかワインも買ってきたから年越しながら飲もうぜ」
「いいね。年越しそばまだいいでしょ?」
「おう」
私の背後に立ったショーゴは鍋を覗き込んだ。
「ウマそーだな」
「味見する?」
横にずれ、おたまを持ち上げるとショーゴは顔を近づけた。
「年越しそばのつゆもこれでいいでしょ?あとで天ぷら揚げるー」
「すっげーうめえ。汁透明なんだ。茶色っぽいのしか食ったことなかった」
「実家のは茶色いけど、私透明なやつが好きー」
「俺もこっちの方が好きだわ」
どうやらショーゴはお気に召したようだ。作ってよかった。
二人で部屋に入り、「あ、ガキ使やってるじゃん!」とテレビをつけて寛ぎ出す。今年は笑ってはいけない新聞社だ。
ショーゴはタバコ吸ってる最中に笑って、咽せこんでいた。
もうちょっとしたら天ぷら作ろう。そう思って横になり、胡座をかいていたショーゴの太ももに頭を乗せる。
するすると頭を撫でられてその心地よさに思わず寝そうになってしまった。
10分くらいそうしてから、立ち上がり、年越しそばの準備に取り掛かる。
出来た年越しそばを持って部屋に行くと、ショーゴはテーブルに置くスペースを作ってくれた。
「ウマそーだな、ビール持ってくる」
海老天とイカ天の乗ったそばを見て、ショーゴは立ち上がり、スーパードライを二本持ってきた。
いただきまーすと手を合わせて食べ始めたショーゴに倣って私も食べ始める。我ながらなかなかウマい。
「すっげぇうめぇ!緑のたぬき食うのかと思ってたから尚更」
「よかった〜」
「風呂何時に入る?年越す前に入りてぇけど」
「ガキ使気になるよねー」
「そうなんだよ」
「シャワーでよくない?」
「だな」
お互い今日仕事じゃなければもっとゆっくり出来たんだろうな。
***
シャワーも済ませ、ガキ使を見ながらのんびり酒を飲み、年越しを待っていると、ショーゴのケータイが鳴った。
「もしもし。マジっすか?あー、今からは無理っすよ。朝?んー、ちょっと待って。掛け直します」
ケータイを閉じ、私の顔を見てきたショーゴに首を傾げると、ショーゴは切り出しづらそうに口を開いた。
「森山さんから。明日朝から皆で初詣行こうって誘われたんだけど、お前どうする?行く?」
「皆って?」
「森山さんとその彼女と、俺と彼女。今森山さん家に三人で集まってるらしい」
「私行ったらお邪魔虫じゃん〜。なんでお前いんだよって空気になるよ」
「でも一人置いてけねぇだろ」
「朝でしょ?私寝てるからいいよ。気にせず行ってきなよ」
森山さんたちは皆で集まってるっていうのに、家で私と年越してくれるだけでもありがたい。
渋っているショーゴにそういうと、ショーゴはタバコに火をつけた。
「近所に寺あっただろ?歩きで行ける距離だし後で行こうぜ」
「うん」
ショーゴは私の事をこうやって気にしてくれる。だから彼女たちと行く前に私とも初詣に行こうとしてくれてるんだろう。
和成もこうやってショーゴみたいに気にかけてくれたら。そう考えるのは欲張りなんだろうか。