クリスマスイブ、ショーゴはお昼前に家を出た。
私はいつもより身支度を念入りにした。
数時間後にはショーゴと待ち合わせだ。お昼ご飯どうしよう。そこら辺のファミレスでテキトーに済ませようかな。
和成とは数日前に会い、プレゼントを渡した。和成の好きなシルバーアクセブランドの限定品をあげたらとても喜んでいた。私はアナスイの財布を貰った。まだ開封してない。
支度を済ませ、駅方面に向かう。
待ち合わせの駅まで電車で移動し、昼食をとっていると、ケータイが鳴った。この着信音はショーゴだ。
「もしもし?」
「今ドコ?今から電車でそっち向かう」
「早かったねー。今待ち合わせの駅前のあそこの店でご飯食べてる」
「すぐ行くから待ってろ」
電話を切り、また食事を再開する。食べ終え、デザートを頼もうか悩んでいると、目の前にショーゴが座った。
「ワリィ、お待たせ」
「だいじょーぶ」
「イルミネーションは夜の方がいいよな。それまでどこ行きてぇ?」
「んー、思いつかないなぁ」
「ぶらぶらするか?それともカラオケかどっか入るか?」
今日は都内にイルミネーション見に行くことになってるけど、正直すでに面倒くさくなってきてる。
混んでるだろうし、電車あんま好きじゃないし。
だけどショーゴは見るからに楽しみにしてる。
「あ、ねえ」
「ん?どこ行くか決まったか?」
「都内じゃなくてさ、ららぽ行かない?イルミネーション綺麗らしいし」
ららぽーとなら電車で数駅だから近い。
「近いし時間潰せるとこあるしいいかもな」
ショーゴは私の提案に乗ってくれた。
私もショーゴもタバコを一本吸い終え、駅へと向かった。
ららぽ行くなら都内方面で待ち合わせしなくてもよかったかもしれない。
***
映画館で昨日から上映されてるティンカ◯ベルをみた私たちは、ららぽーと内を見て回った。
「お前さ、子供好き?」
「別に普通」
ベビー用品のショップの前で立ち止まったショーゴは私の手を引き、中に足を踏み入れた。
なついてくる子は可愛いけど生意気なクソガキは嫌いだ。「ちっちゃい子大好き〜」なんて良い女アピールする気はさらさらない。
ショーゴは赤ちゃん服を手にとって見ている。
「ちっこくて可愛いな」
「いいなぁ赤ちゃんの頃に戻りたい」
女の私じゃなく、男のショーゴが小さい子好きアピールをし始めたけどスルーだ。
赤ちゃんに戻って本能のまま生きたい。17歳になった今でも結構本能のままに生きてる気がしないでもないけど。
ショーゴは私の反応がつまんなかったのか、店をすぐに出た。
今度は雑貨屋に連れて来られ、ショーゴの横で商品を眺める。
「お揃いのマグカップでも買うか?」
今使ってるマグカップは、ショーゴが元カノと使ってたペアのやつだ。私は別に気にしてないけど、ショーゴは元カノの事を思いだしたりでもするのかな。
頷くと、ショーゴがこっちもいいけどあっちもいいと悩み出した。
こういうとこ私より乙女っぽいと思う。
「これにするか」
ショーゴが手に取ったのは、ミッキーとミニーのマグカップだった。
くっつけるとチューするやつ。普通に可愛い。
「かわいい」
「だろ?俺のセンスなめんな」
会計を終え、またショッピングモールの中をぶらぶら歩く。
タバコを吸いたいと言うと、タリーズに入ってくれた。
***
外も暗くなり、肩を抱かれながらイルミネーションを見て回る。
「綺麗だねー」なんて言い合いながら眺めたり、たまにキスされたり、どこからどう見てもバカップルだ。カップルじゃないけど。
周りには家族連れやカップルが結構いる。
ショーゴとくだらない話をしながらのんびり歩いていると、遠くに見知った顔が楽しげに歩いていた。それも一人じゃない、二人。
私が立ち止まると、ショーゴも立ち止まった。
「疲れたか?」
気遣わしげなショーゴの言葉に首を横に振る。
見知った顔はだんだんこちらに近付いてくる。私はショーゴに抱き付いて顔を隠した。なにも、隠すことないじゃないか。向こうだって、和成だって女ーーレイナちゃんと一緒にいるんだから。
ショーゴはいきなり抱きつかれてわけがわからないだろうに、抱きしめ返してくれる。
「彼氏。女とこっち歩いてくる」
小声で言うと、強く抱きしめられた。
私の存在には気付かなかったのか、和成たちの楽しげな声が横切っていった。
「あいつらだろ?もう行った」
ショーゴの言葉に顔をあげる。
今私はどんな表情をしているんだろう。泣いていないのは確かだ。情けない顔でもしちゃってんのかな。
和成が女と一緒だろうって予想はしてたけど、関係が切れていると思ってたレイナちゃんだとは思ってなかった。
沈む気持ちを押し込めてショーゴに笑いかける。
「夜ご飯なに食べる〜?」
「そんなことより、ほっといていいのかよ。彼氏ぶん殴るくらいしてやる」
ショーゴは血の気が多い。まじでやりかねない。誰がどう考えてもDQNだ。
だけど私はショーゴの言葉が嬉しかった。
ショーゴが一緒にいなかったらどん底の気分で泣き出していたかもしれない。
「私もショーゴといるし。やってること一緒じゃん?」
「ちげえだろ」
私はジコチューだから、自分がこうしてショーゴの彼女を差し置いてショーゴと一緒にいるのに、和成とレイナちゃんが一緒にいたことにショックを受けてる。
だからショーゴが否定してくれて嬉しかった。
私たちみんな、彼氏彼女とは別の人間とクリスマスイブを過ごしている。なんて歪なんだろう。