あれから三日、今日はバイト先の最寄り駅までキヨくんに送ってもらった。
仕事が終わったあと、ショーゴと合流して新しい部屋に案内してもらう予定だからちょっと楽しみ。
まだ仕事まで時間がある。駅近くの歩道橋下にある喫煙所に行き、着替えとか入っているバッグを地面に起いてもうひとつのバッグからタバコを取り出した。
そして吸っていると肩を叩かれた。
「よぉ、おはよ」
振り返ると、タバコを持ったショーゴが立っていた。
三日会わなかっただけでなんだか懐かしい。
百貨店で働いている人が喫煙所にいるかも、と下手なことを言わないよう気をつけながら口を開く。
「おはよー」
「なんか久しぶりって感じすんな」
二人で並んでタバコを吸う。
なんかショーゴと居ると落ち着く。キヨくん家で気張ってたのかな。やばいまじでショーゴってオニーチャンみたいじゃん。
タバコも吸い終わり、ショーゴを見ると二本目を取り出しているところだった。
「お先ー」
「んー、また後でな」
頭をポンポンされ、ここでそれしない方がいいんじゃないかなぁなんて思いながらロッカールームに向かった。
***
同じ店で働く女二人がオタクだということが判明した。
二人が話しながら仕事してる横で、私は会話に加われず(男ばっかの職場で働きたい)無言で仕事していたのだが歓迎会のときショーゴと仲良さげだった女が「ズッキー可愛い」という言葉を発して、反応してつい声をかけてしまった。
「ズッキー?俳優かなんか?」
「え、あ、えーと、多分苗字さんは知らないと思うよ。有名じゃないし」
「もしかしてテニミュの?」
「え、そうそう」
話を聞いていると、もう一人は電王に出てる佐藤健が好きらしい。そんで二人とも腐女子。まさか職場に同志がいるとは思わなかった。しかもショーゴと仲いい方はヴィドール好きらしい。バンギャに見えなかったからびっくりした。
だがしかし、私は女受けよろしくない。大抵の女に嫌われる。懐いてくれるのはヤンキー系とかチャラい系の子だけだ。うわなんかめっちゃ悲しい。
二人は早々に話を切り上げて仕事に戻ってしまった。
***
駅のホームでショーゴと待ち合わせし、新居の最寄り駅前にあるファミレスでご飯を食べてからマンションへと向かう。
ショーゴの新居は、前の家より一駅百貨店に近かった。交通費ちょっと安くなるかな。まぁ交通費かかんだろってたまにショーゴがお金くれたりしてるから私にはあまり関係ないけど。
外観はオートロックで綺麗な新築マンション。
だけど、各駅しか止まらないし駅から歩いて10分かかるから早起きしなきゃいけないっぽい。
ショーゴは昨日こっちで生活出来るように荷ほどきしてから、旧居に戻って寝泊まりしたらしく、新しいほうで生活するのは今日からだと言っていた。私と新居での生活をスタートさせたかったらしい。なにそれキュンとする。
間取りは玄関から延びる廊下の先に8畳の部屋がひとつ、廊下にキッチン台がありその横に冷蔵庫が置いてある。
キッチンの向かいにはトイレのドア、それから洗面所のドアがあった。
洗面所には簡素な洗面台と見慣れた洗濯機がある。お風呂場を覗くと、広さは前の家とほとんど変わらない。
「たまに名前と入るために、風呂場狭くないトコ選んだんだぜ」
ショーゴに後ろから声かけられ、風呂場から視線を移す。
「じゃあ今日一緒に入る?」
「おう。そうだ、入浴剤買いに行こうぜ」
「いいね」
明日は私もショーゴも仕事休みだ。また外に出るのはだるいけど、明日ゆっくりすればいいだろう。
私は手ぶら、ショーゴは財布と鍵を持って家を出た。
ドラッグストアにはいろんな種類の入浴剤があった。
私はきき湯を希望したけど却下された。なんで。きき湯気持ちいいじゃん。
ショーゴはゼリーみたいにトロトロになるなんかオシャレな入浴剤(似合わない)と、温泉の素を箱買いしていた。
「あー、そういやシャンプーとか歯ブラシとか全部旧居に置いてきちまった。危ねえ忘れるとこだった。新しいの買うか」
シャンプー好きなの選べよ。そう言われて棚を見渡すが、前の家にあったやつと同じパンテーンを選んだ。
「これー。ショーゴからパンテーンの匂いすんの好き」
パンテーンのシャンプーとリンスを、ショーゴの持つカゴに入れた。
「名前トリートメント使うか?」
「あれば使うー」
そう言うと、ショーゴの腕が伸びてきてトリートメントとヘアオイルもカゴに入れてくれた。
「ショーゴ使わないっしょ?ありがとー」
「前の家の敷金戻ってきたし気にすんな」
ボディーソープはタヴのやつを選び洗顔フォームはセルディのピンクのやつにしてもらった。
身体を洗うナイロンタオルは、ショーゴが青を取り、私のは勝手にピンクのをえらんでた。カップルか。
「化粧落としは?同じやつでいいか?」
「こっちのほうが安いよ」
「俺が金出すんだし使いやすさで選べよ」
どうやら前に、パーフェクトオイルに感激していたのを覚えていたらしい。ショーゴは高い方のボトルをカゴに放り込んだ。
ついでにシートタイプのやつも買ってもらった。
歯ブラシも青とピンクにすると言い出したショーゴに、ふつうじゃなくてかためね、と声をかける。
私は歯ブラシはかため派だ。
ショーゴは私の手を引き、店内を歩き回る。目当てのコーナーが見つかったのか、立ち止まった。ショーゴの視線の先にはコンドームが並んでいた。
「お、これか」
「ん?なんか評判いいゴムでも聞いたの?」
「お前さ、前に軽いゴムアレルギーっつってただろ。違う素材のねぇか調べたんだよ」
「え、ありがとー嬉しい。でもさー、そこまでヤる気満々ならもう酔った勢いじゃなくてよくね?」
「お前相手だと酒入ってないと緊張すんだよ」
うーん、いい意味として受け取っておこう。
てか本人は大した症状ないしいっかーなんて思ってたのにショーゴはわざわざ調べてくれたらしい。嬉しい。
ショーゴはサガミオリジナル002って箱をカゴに入れた。今後のために商品名覚えておこう。
ドラッグストアで必要なものを買い、ショーゴが荷物を全部持って家に帰ると、チューハイを渡された。
「風呂掃除してお湯溜めてくるから、テレビ見ながらこれでも飲んで待ってろ」
「私やるよ?」
「いーよ、歩いて息切れヤバかったクセに。体力ねぇの知ってんだからな」
そう言われ、任せることにした。
和成もショーゴ並みに優しければいいのに。和成は優しいとこもあるけど、気分屋だ。よく振り回される。なんで私和成のことこんなに好きなんだろう。自分でナゾだ。
チューハイを飲みながらタバコを吸っていると(部屋の中で吸っていいかちゃんと確認した)ショーゴが戻ってくる。
私の隣に座ると、ショーゴもタバコを吸い始めた。
「オタクとかきめぇ」
テレビを眺めているとら番組で取り上げられたオタクを見てショーゴが呟いた。
「ちょっと、私オタクなんだけど」
「名前はオタクじゃねぇだろ」
「オタクだよ」
近くに置いてあったバッグから、アニメのグッズが沢山ついた実家の鍵を取り出すと、ショーゴは驚いていた。
「マジかよ」
「きめぇとか傷つくー」
傷つかないけど。
「いや、名前だったらオタクでもいーよ」
「なにその理論」
「俺理論」
オタクなのは隠してないけど、流石にホモが好きだというのは黙っておこう。
話の流れから、今日の仕事中の出来事を思い出し、口を開く。
「そーいえば今日さ、うちの店のあの二人がオタクだって判明したんだー」
「へぇ、じゃあ名前と話合うんじゃねぇの?」
「仲良くしたいって思ったのにさー、あの二人あんま私と話したくないっぽい。話に混ざったらすぐどっかいっちゃった」
ショーゴに話したのは軽い腹いせだ。あの女ショーゴと仲良かったっぽかったけど嫌われてしまえ。はっ。
「うわぁ。なに、名前イジメられてんのかよ」
「軽くハブられてるだけー」
イジメではないと思いたい。
店長や他の子は皆で楽しそうに話してるけど、私が混ざろうとすると普段から解散するから混ざるの諦めた。うちの店で私と楽しくおしゃべりしてくれるのなんて原澤さんくらいだ。
「大丈夫か?女ってえげつねえな。なんかあったら俺に言えよ」
「ありがと。店では原澤さんが構ってくれてるんだー」
「原澤さんいい人だし味方でよかったな。まぁハブられるだけでもキツいだろ。耐えらんなくなったら頼れよ。俺がそいつらに言ってやっから」
「ありがとー。休憩かぶればショーゴと話せるし多分大丈夫」
私要領悪くて仕事全然デキないけど、ショーゴが励ましてくれるからこれまで通り頑張ろうと思いました。あれ、作文みたいになった。