ショーゴの部屋の鍵はひとつしかない。
から、後に家を出たほうが鍵を閉め、先に家に帰るほうが鍵を受け取る。
受け渡し場所は私とショーゴの働く百貨店内だ。
一番遭遇率の高い社員用カフェが基本だけど、毎回休憩時間が重なるわけではなく、そういう場合は結構苦労する。
だいたいは私の休憩時間が判明してすぐ、ショーゴにメールを送ると休憩時間を合わせてくれるのだが、それが無理な場合もある。
そういう場合はなんとか会えるようにしてこっそり鍵を渡したり受け取ったりするのだ。

今日は休憩時間が合わないらしい。
店のカフェスペースを掃除していると、ショーゴが「お疲れさん」と声をかけてきた。
私もお疲れ様と返すと、ショーゴは周りに気を配りながら、社員通路の方向を指差した。
多分都合つけて今から来いということなのだろう。
私とショーゴはここ最近アイコンタクトが上手くなったと思う。

掃除を切り上げ、何か裏に行く方法はないかと作業スペースを見渡す。生ゴミがいっぱいだ。
店長に生ゴミ捨ててきます。と声をかけると、「ついでにこれも持ってきて」と必要なものが書かれたメモを素っ気なく渡された。
重たいゴミ袋を頑張って持ちながら、社員通路へと向かう。

社員通路は薄暗くて少し不気味だ。
ショーゴは見当たらない。多分先に用事を済ませてるんだろう。
ゴミ収集所に向かい、生ゴミを捨て、重たかった腕が一気に軽くなった。
また社員通路へと戻ると、ショーゴが壁にもたれかかっていた。
私たち以外に人がいないか確認してから会話を始める。

「うまく抜けられたか?」

「ゴミ捨て理由にしてきたー。なんもなかったらトイレって言うから大丈夫」

「良かった。まじわりぃな」

「ん、いいよ。で、どうしたの?」

「今日他の売り場の人とゲーセン行くから帰り遅くなる」

ポケットから鍵を取り出したショーゴは、私の手のひらにそっと落とした。

「わざわざありがと」

「おぅ。今日は休憩被せらんねぇから喫茶店でも会えないだろうし、夜まで顔見れねぇな」

「夜には会えんじゃん」

「やっぱゲーセン行くのやめっかなぁ」

「いってきなよ」

「んー」

歯切れ悪く唸った祥吾は、私の腕を引っ張った。そのまま抱きしめられ、キスされる。

「ショーゴ、誰かに見られちゃったらどうすんの」

「見られちまったらお前俺の彼女ってことにしとけ」

「んー、いいけど」

「お前早く戻んないとまたあのキツイ店長に怒られんな」

「うん」

「じゃーもっかいだけ」

深いキスをしばらく堪能したショーゴは私の頭を撫でて、売り場へと戻っていった。
あ、店長に頼まれたもの取りに行かなきゃ。
キスの余韻に浸る間もなく、私も冷蔵室へと足を向けた。
結局、売り場に戻ると店長に遅いとめっちゃ怒られた。

合鍵つくる話も実は出たけど、結局作らなかったのはお互いこの状況を楽しんでいたからだろう。
秘密の関係みたいでスリルがあって楽しい。
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