11月某日。もう真冬かってくらい寒い。
先日また和成と喧嘩した。内容は和成の女関係だ。
バイトの夕方休憩中、ガタリと隣に座った人にチラリと視線をやると、ショーゴだった。
「お疲れ」
「お疲れさま」
ショーゴのトレーにはホットコーヒーと灰皿が乗っている。
私は相変わらずのアイスカフェモカだ。
「なぁお前今日の歓迎会行くの?」
今日は同じフロアの何店舗かが合同で、最近入ったバイトや契約社員の歓迎会を開くらしい。
私は頷いた。
「行くよー」
「歓迎会なのに俺たちも会費取られるらしーぜ」
「まじで。金欠なんだけど」
「絶対来いよ。ババアとブスばっかじゃ酒まじぃし」
「あれ、私可愛い?ありがと」
「普通に可愛いんじゃね」
めっちゃ素っ気なく言われた。へこむわ!ごめんちょっと調子乗っただけだから。並の女だから。平凡な顔なのに調子乗ってごめんなさい。
ショーゴと私はタバコを吸いながらくだらない話をし、休憩時間を過ごした。
***
居酒屋の一室でグラスとグラスの重なる音が鳴り響く。
同じ店で働いてる人、なんとなく見たことのある人、初めて見る人まで色々といる。
初めて見る人は、同じ階とはいえ離れてるとこにある店で働いている人かな。
残念なのは、うちの店長も参加してることだ。
サバサバしててキツくて化粧っ気のない、如何にも仕事一筋です的な三十路の女は苦手だ。私の嫌いな要素なんでそんなに店長はかき集めてんの。
席が離れててよかった。
私の片隣と目の前には同じ店で働く女、もう片方の隣には同じ店の男性社員さんがいる。
社員さんは30代前半っぽい。私にも敬語で、物腰柔らかな感じで優しいから社員さんーー原澤さんは好きだ。
「苗字さん、17歳でしたよね?生なんて渋いですね」
同じ店の女の子と打ち解けてない私に気を使ってか、原澤さんは話しかけてくれた。優しい。
「あはは、オッサンかってよく言われます」
酒を飲むペースが早いのは昔からだ。原澤さんは料理などを小皿に取り分けてくれたりした。そして私のジョッキが空になると、メニューを開いた。
「なに飲みます?」
「んーと、ブラッディメアリーありますか」
「17歳だとは思えないチョイスですね」
「えへへ」
私が笑うと原澤さんも笑って、呼び出しボタンを押して注文してくれた。
原澤は瓶ビールを飲んでる。私がお酌してあげると照れたように笑って可愛かった。オッサンってほど老けてないけど、若い子にお酌されて嬉しいのかな。
それからしばらく飲みまくっていると、少し酔いが回ってくる。
もしかしてこの中で一番飲んでるの私じゃね。
割り勘だったよね。ご馳走様です皆さん。
「うるせーなクソババア!ハムに加工すんぞ!」
原澤さんと楽しく飲んでいると、私の座る反対側の端の方から聞き慣れた声が聞こえた。
視線をやると、ショーゴが、ショーゴの働く店の店長にゲンコツ食らっていた。
ショーゴが働いてるのハム屋さんだけども、店長まじでボンレスだけども、加工すんぞはアカン。主に私の笑いのツボの浅さ的な事情でアカン。
笑いを堪えていると、同じく笑いを堪えた原澤さんと目があった。
「灰崎くんは、もう。またあそこの店長と喧嘩して、まったく」
原澤さんはプルプル震えながら喋っている。原澤さんとショーゴ面識あるんだ。
なんとか落ち着いてまた当たり障りのないことを話していると、ショーゴが私の斜め前、つまり原澤さんの目の前にやってきて腰掛けた。
「原澤サンちーす」
片手をあげ挨拶し、チラリと私を見てから私の目の前にいる職場の女の子に話しかけた。
「お前彼氏出来た?出来ねーよなその顔じゃ」
「は?なんなの?喧嘩売ってんの?」
「まぁいいや、そこの子、紹介しろよ。休憩中何回か喋ったことあるけど」
私を指差してそういうショーゴ。あ、あんま親しくない設定で行くんだ。
「はぁ?あー、この子はうちの店に最近入った苗字名前さん」
「俺は灰崎祥吾、よろしく」
「よろしくね」
二回目の自己紹介に笑うとショーゴは酒を煽った。
「あー、可愛いから今日は俺が奢ってやるよ」
「え」
「は?私はー?」
私の目の前にいる女は不満そうだ。ショーゴは笑い始めた。
「ブスには奢んねーし」
ショーゴはなんなの。イジメ誘発する気なの。女は私含めめんどくさい生き物だ。ヤリマンやら男好きやら陰口叩かれるのが目に見えてるんだけど。
居心地の悪さに「申し訳ないんで遠慮します」というと、原澤さんが助け舟を出してくれた。
「いつも私にたかってくる灰崎くんが奢るなんて滅多にないことですよ。受ければいいと思います」
「んー、じゃあ、ありがとうございます」
「あ、でも灰崎くん手早そうなので食べられないように気をつけてくださいね」
原澤さんはショーゴのネガキャン始めた。仲良さそうだ。
ショーゴはそんなことねーよと否定して、目の前の女は「苗字さん気をつけてー」なんて言い始めてる。
目の前の女もショーゴと仲良いのか。
恋愛関係のゴタゴタにはもう巻き込まれないようにしようそうしよう。