後日、親友がオニーサンたちを迎えに行って、引き連れてきたうちの一人をみて呼吸とまるかとおもった。
咄嗟に私は、「ハジメマシテ!名前です!」なんて大きな声で挨拶してしまった。
だって、一人は知らない男だけど、もう片方はよく知った人、キヨくんだったから。
キヨくんは私をみて訝しげな顔をしている。
「ほら、ホナミ、紹介してよー」
「こっちが、話してた優しいオニーサンの、清志さん。で、こっちは……」
後半は耳に入って来なかった。
えーと、親友の好きな人はキヨくん?
私の不審な態度に気付いたのか、キヨくんは「んー、はじめまして。よろしくな、名前ちゃん」って挨拶してくれた。デキる男だなキヨくん。
***
親友は好きな人を前にテンションがあがってたのか酔っ払ってゲロ吐いた。その被害を被ったのがキヨくん。キヨくんの連れは酒弱いのか缶ビール二本飲んで爆睡している。
とりあえずシャワー浴びれないだろう親友を綺麗にし、部屋も綺麗にし、ベッドに寝かしつけた。
「清志さん、ほら。シャワー浴びてきなよ。ホナミのスエットデカいのあるから入ると思うし」
「その呼び方気に食わねえ」
「あー、うん」
「風呂場まで案内して」
スエットを持って部屋を出ると、キヨくんが着いてくる。
階段を登ってるとキヨくんが口を開いた。
「説明しろよ」
「なにが?」
「初対面のフリした理由とか」
「えーと」
「……まぁいいわ、なんとなくわかるし」
小声で話していれば、風呂場まで辿りつく。キヨくんを洗面所に押し込んで、部屋に戻ろうとすると、引きとめられた。
「部屋わかんなくなりそーだし、ここで待ってろよ」
渋々と洗面所に入りドアを閉めると、キヨくんは服を脱ぎ出し、風呂場へと入っていった。
あー、どうしよう。気まず。洗面所の床に座り込んで膝に顔を埋める。
しばらくすると、ガラリとお風呂場のドアが空いた。私は微動だにしない。
「寝てんの?」
「起きてる」
「タオルどれ使えばいーの」
「棚にあるの好きに使って大丈夫だよ」
私のじゃないけど。キヨくんは返事しなかった。まだ私は膝に顔を埋めている。
「なぁ、顔あげろよ」
耳元でキヨくんの声がする。そんな想像外の出来事に顔をあげると、頭を撫でられた。
「お前が気に病むことじゃねーだろ」
「私が何考えてんのかわかんの?」
「友達の好きな男が自分を好きってことに病んでんだろ」
「……キヨくんは本当に私のこと好きなの?」
「あぁ。ホナミには名前ちゃんが好きだから気持ちには応えられないって言うつもりだ」
「やめてよ。私の名前出さないで」
「やめない。すぐに言うって訳じゃねーよ。初対面設定にしちまったし。居づらくなったら俺ん家くればいい」
「わざと私の名前出すんだ」
「俺ひどい男だからな」
「うん、ひどい」
困って泣きそうになっていると、キヨくんにキスされた。私は無言で立ち上がり、部屋へ戻ってケータイと財布、それから上着を掴んで外へと出た。