バイトもう終わりだろ?今から駅前こいよ。
電話で誘われ、これから和成と会うことになった。
百貨店から少し離れたところにある更衣室(室、というか建物)まで急いで向かい着替えを済ます。
そしてまた急いで待ち合わせの駅前まで向かうと、和成は不機嫌そうにしていた。
「遅い」
「急いだんだけど、ごめん」
私の謝罪は無視で、和成は足早に歩き始めた。足の長さの差なんて考えてくれない。追いつこうとするとどうしても走る羽目になる。
「まっ、て」
あー息切れやべえ。バイトで疲れてんのになにこれ。私の言葉は相変わらず無視な和成にムカついて、追いかけるのをやめた。
自分のペースで歩き始めれば、すぐに和成と私の間には声の届かない距離が空いた。
ふと立ち止まった和成はこちらに振り向き、やっぱり不機嫌そうに私を見ている。
小走りで駆け寄るなんて可愛いこと思いつかない。私はゆったりした歩調で距離を縮めた。
「遅い」
「和成が早いんじゃん」
私の不機嫌そうな顔を見てか、和成は困ったように手を差し出してきた。
「ほら」
私は一瞬躊躇ったものの、差し出された手に自分の手を重ねる。
すると和成は歩き出した。
「どこ行くの」
「んー、三番街のほう。イルミネーション綺麗なんだってよ」
「へー」
「キョーミない?」
和成はまた困ったような表情を浮かべている。
そんなことない。けどイルミネーションキレー!なんて言うような心境じゃないのだ。
身体が疲れているからか、心まで弱っている。そんなときに好きな人とロマンチックな場所に行っても多分余計弱るだけだ。
***
三番街に着くと、円錐型の大きなイルミネーションが飾られていた。
白と金色で綺麗だ。
和成もそれを見上げて「キレーだなぁー」なんて呟いている。
和成は彼女じゃないやつとイルミネーションみて楽しいんだろうか。
そんなことを考えたら涙が溢れてきた。
ボロボロと止まらない涙。それに気付いた和成が動揺し始めた。
「えっ、ちょ、なんで泣いてんの。さっきの俺の態度のせい?悪かったから、な?泣くなよー」
和成の手が濡れた頬に重なる。
「もう、疲れた」
「バイト?」
「和成のこと考えんの、疲れた。好きでいるの疲れた」
和成は私の言葉に顔を顰めた。
「なんでそんな事言うんだよ。やめろよ、俺まで泣きそーだから」
「嫌だ、疲れたよ。私のこと好きじゃないなら曖昧な態度取ってないでフってよ」
和成は泣きそうな顔をしているけど、私の口は止まらない。
「彼女になりたいって、もうこれ以上頑張れない」
「なんでこのままじゃダメなんだよ……」
「不安、だから」
「付き合ったら別れとかあんだろ。お前のこと失いたくないから付き合わないようにしてんの」
「付き合えないなら、もう諦めるから」
「好きだってわかってくれよ」
和成の言いたいことはなんとなくわかるけど、結局都合のいい女をキープしたいだけなんじゃないの。そんな考えが頭から離れなくて、私は首を横に振ると、和成が抱き締めてきた。
「んー、じゃあ、タバコやめて。俺がタバコ嫌いなの知ってんだろ」
付き合う代わりにタバコやめろってなんだ。とは思ったものの、私は頷いた。
「すぐには無理だけど、減らしてく」
「ん、じゃあ……付き合ってください」
「プッ……はい」
こうして11月のとある日、私は和成と付き合うことになった。
ちなみにタバコはやめる気ないです。