ママさんがゆっくり俺の髪を撫でつける。幼児という身体の特性上、あったかい布団の中で頭を撫でられたり肩をぽんぽんされると爆速で眠りに落ちてしまうのだ。今にも意識が飛びそうな俺の顔を見て柔らかく微笑むママさんと、俺の顔の横に置かれたママさんの携帯電話。それとこの日の為に買った赤と緑の小児用靴下。ちなみに今後ちゃんと履く予定だ。
ママさんと二人でチキンを食べて、小さいながらもケーキを食べた。これがなんと、零の手作りだという。というか「ゼロの手作りだぞ
」と言いながらくったくたになった諸伏が持ってきたやつである。イベント事の時は、愉快犯的な奴等がハッスルする事案、またはそれを未然に防ぐために警察や警備隊が動員されることがままある。多分目の下に隈を湛えた諸伏もあのまま本庁に戻るんだろう。俺のおやつのビスコあげたらめっちゃ喜んでたから諸伏も疲れてるんだろうな。おいしくて強くなれ。
『一希、おやすみ、明日はきっとサンタさんが来てるぞ』
そして今は、今日は帰れないだろうからと零から電話が来たところだった。零もクリスマスの夜景の輝きのひと欠片になるかと思えば気の毒なようなそうでないような。まぁ普通に人々が夜景を楽しむ時間に残業してるのは気の毒だよな。温かい布団とママさんにあやされながら、俺は殆ど目を閉じて呟いた。
「うん…でもね、ほんとは…さんた、おねがい、したの…よりもっと、ほしいの…ある…」
「そっか…………うん?…えっ?うん?」
『…えっ……えっ???』
目の前でちょっとした修羅場が勃発しているのだが眠気に負け掛けている幼児にどうこうできる話ではないのである。ふと夢の世界に旅立ち掛けた時に、ママさんが慌てて口を開いた。
「えっと…一希、何が欲しかったのかな?サンタさんは間に合わないかもしれないんだけど、よかったらママに教えてくれる?」
目をかっと見開いたママさんが、俺の薄目の隙間から食い気味でそう聞いてくる。確かにうっかりヒヤッとする言い回しをしてしまったかもしれないが、そういうことではないのだ。ぱちぱち、と浅く瞬きをして、俺はあくびを噛み殺して答える。
「れぇが、ゆっくり おやすみ…できる、じかん…」
眠くてぽろぽろ、と零れた本音にママさんが息を呑んだ。どうせまた目の下に隈を作って日本の平和を守っているんだろうけど、働き過ぎは身体に毒である。公安の仕事量の多さは十分承知ではあるが、そこはなんかみんなで協力していい感じに頑張れ。
『…一希…』
零がぼんやりした声で俺の名前を呼んだ。もちろんママさんと二人で過ごすクリスマスは良いけど、海外ではクリスマスイブが恋人たちの日、クリスマスは家族で過ごす日らしい。それにかこつけて馬車馬のように働いているお巡りさんだって少しくらい休んだってバチは当たらないだろうに。犯罪者も警察官も、今日くらいゆっくりチキンでも食えばいいのだ。
「かずより、れいに…さんたさん、こないかなぁ…」
なんとかそう絞り出した瞬間に、ふっと意識が遠退くのを感じた。帰ってこないのなら、零の分のクッキーの詰め合わせは伊達行きになるだけである。遠くでママさんが零と何やら話をしている声を子守唄に、俺はそのまま眠りに落ちた。
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