今日も今日とて、海軍本部に向かう。海兵の偉い共には用事もないのにどうして来るんだ、という目で見られるし、おつるさんには「また来たのかい」なんて呆れた表情を向けられる。
「あの子だってお前の相手以外に仕事があるんだよ、あまり時間を使わせたら酷だろう」
「フッフッフ、モアはおれの担当なんだろ?だったらおれの為に時間を使わせて何が悪ィ」
「しょうがない子だね」
まるで自分の子供のようにモアを扱うおつるさんに少し眉を寄せる。面白くない。あいつをおれの連絡役にしたのは海軍の方なのに、その特権を使おうとすると渋るのか。控室の椅子に足を投げ出して座ったままむう、と頬を膨らませる。
「…モアが来るまで帰らねぇからな」
「そうだろうと思ってもう呼んであるよ、少しお待ち」
「フッフッフ!さすがおつるさん!」
聡明で気の利く彼女に思わず大声で笑えば、控室の扉が四回のノックの後開け放たれた。その向こうから覗く金髪に、またも自分の機嫌が上昇したのが分かる。
「ドフラミンゴ様、ご機嫌よう」
「フッフッフ!元気そうだなァ、モア」
「えぇ、貴方も」
ふふ、と笑ったモアに向かってすかさず手を伸ばして寄生糸を差し向ける。一瞬身を固くした男は合点がいったように暫し苦笑して、それからおれの意思通りに動き出した。一本、一本、ゆっくりと足を進める。
「挨拶の仕方は教えて頂いた筈ですが?」
「アレもいいけどなァ、今日は違ェ」
「おやおや、仕様のないお人だ」
ふふ、と柔らかく笑ったモアの顔に心臓がきゅん、と音を立てる。そのままゆっくりとおれに近づいて来るモアを受け入れるように、おれはそっと両手を広げた。
「親愛の挨拶は、ハグに限るよなァ」
「貴方は時々少女のようなことを言いますね」
「そういうのはお気に召さねぇか?」
「いいえ、まさか」
軽口を叩きながら、モアがおれとの距離を詰める。やがてふわり、と胸の奥に満ち溢れるようなくらくらする香りと共におれの背中と後頭部に一本ずつ腕が回った。この身長差だと、おれが座ってやっとモアの方が身長が高くなる。ぐい、と引き寄せられてその白いコートの肩口に顎をのせる体勢になった。すう、とその香りを肺にまで吸い込んで、堪らずこちらもその逞しい背中に両腕を回した。
「フッフッフ!すきだぜ、モア」
「身に余る光栄です」
「余らなくていいから受け取ってくれたらイイんだがなァ」
「僕程度に勿体無いですよ」
「おれが良いって言ってんのに」
この控え目な物言いも、モアの人柄が現れていてとても好感が持てる。しかしその言葉とは対照的におれを惹きつけて離さない笑みや香りが妙なアンバランスさを持っていて、モアの魅力を演出しているのだ。これだからこの男は。少し焦れったく感じて、人差し指をくい、と曲げる。途端に上体を優しく倒されて、おれはモアにテーブルに押さえつけられる格好になった。いわば押し倒す、というやつだ。
「フッフッフ!おいおい、大胆だなァ」
「申し訳ない、身体が勝手に」
「このまま食ってくれてもイイんだぜ?」
「好きなものは最後までとっておく主義ですので」
「フッ、フッフッフ!」
つれない男だ。おれが笑っている間にもモアの手はおれの意志で、おれの体を這いまわっていて、脇腹を優しく撫で上げられた折に思わず口の端が引きつった。モアが少しでもその気になればこっちのものなのだが、それでも目の前の男は穏やかな笑みを崩さない。はぁ、と深い溜め息が扉近くから聞こえた。
「はしたない子だね、ドフラミンゴ」
うるせぇな、あんたと違っておれはまだ若いんだよ。そんなことを口走ったら彼女の能力で洗われてしまうのは目に見えていられるので、誤魔化すように笑っておいた。
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