〇〇しないと出られない部屋

腕を一本差し出さないと出られない部屋




「まさか子供に盲点を突かれるとは…」

ううん、と頭を悩ませながら女はカバンを背負い直した。この娯楽じみた部屋の運営を始めてから、いくつものカップルの紆余曲折をモニターで楽しんできた。
愛を確かめ合うカップル、ひどい喧嘩になるカップル、また、友達以上恋人未満がくっつく様子など、ごちそうさま、と言わざるを得ない様子をずっとモニタリングしてきたのだ。

彼女自身この部屋の運営は楽しいし、稀にむしゃくしゃしたときは過激なお題を設定することもあるが、基本は誰も傷つかないような可愛いものが多い。けれど、今回は別だ。

「やっぱりスピーカー付けるべきだったか…」

子供のふたり組に、意図せぬ方法でお題をクリアされてしまった。
「足を一本差し出せ」とノコギリを置いていたのに、そのノコギリは一切日の目を見ず。
そりゃあ尊いけど。そりゃあ尊いけど今はそういうのが見たかったわけじゃない。少しご機嫌斜めになった彼女が引っさげてきた次のプレートは、「腕を一本差し出さないと出られない部屋」だ。

似たようなお題ではあるが、まさかあの子供と同じようにひねくれた客が何度も来るとは思えない。よし、今度こそ。意気込んで、部屋のお題のプレートを替えに来た。いつも手作業でプレートの付替えから部屋の清掃までやっているが、苦ではない。数少ない趣味だ。

ドアが閉まると彼女ですら閉じ込められてしまうので、ドアストッパーが欠かせない。ぐい、とドアを押し開けて、そこに背負った荷物を一度挟み込む。よし、これでオッケー。

プレートや掃除用具を一通り部屋に運び込む。作業を始めようとして、ふと

「あ、アルコールスプレー…」

一つ道具が足りないことに気が付いた。いけない取りに戻らないと。出口に向かって歩いて、ドアの横をすり抜けて退出する。
どうやら入り口の近くに落としていたらしい。拾って、今度こそ掃除を始めようと振り返る。

「わっ!」

足元を見ずに振り返った彼女の足元には、ドアを止めていたカバン。引っかかって体勢を崩して、諸共部屋の中に転がり込んだ。

「いてて…」

ずべしゃ、と音がしそうなほど無様に床に転がった彼女。ぶつけた膝が痛い。擦りむいてやいないだろうか。涙目になりながらそこを抑えた彼女の耳に、重厚な扉が閉まる音が聞こえた。

「…あっ」







誤って部屋に入った管理人は『腕を一本差し出さないと出られない部屋』に入ってしまいました。
60分以内に実行してください。
#shindanmaker

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