日本舞踊をマスターしないと出られない部屋
「ニホン、ブヨウ…?」
初めて聞く言葉だ。ウウン、と参考資料片手に悩む俺の横で、カブさんが「じゃあ始めようか、ナマエくん」と言った。
「始めるって、なにを…えっ」
そちらを見ると、既にニホンブヨウのユニフォームに着替えた(キモノと言うらしい)カブさんの姿。
「なんですかそれ!!かっこいいですね!!」
珍しい服装に思わずテンションが上がってしまい、カブさんに詰め寄る。苦笑したカブさんは、俺の分と思しきキモノを広げた。
「ナマエくん、おいで」
手早く着替えさせてもらい、大きい鏡の前に立つ。カブさんほど似合ってないのは仕方のない事だろう。
「日本舞踊だけど」
鏡をぼうっと眺めていたカブさんが口を開く。
「僕もちゃんと踊れる訳ではないけど…マスターということは、道のりは長いよ」
「えっ、カブさんニホンブヨウ知ってるんですか?」
「嗜む程度だね」
眉を下げて笑うカブさん。背中に定規を当てたみたいに、ぴっしり真っ直ぐ立っている。ああ、この人の姿勢の良さがとてもキモノに合うなあって、胸が温かくなる。
思わぬところで親和性を感じて、俺はへらっと笑ってしまった。
「ニホンブヨウ、教えてください、カブさん」
嬉しそうにカブさんも「僕の指導は厳しいよ」と笑ってくれた。
けどまさか本当にこんなに厳しいなんて思いもしないじゃないですか。
一時間後、屍のように床に転がった俺は「ビシバシ鍛えてください!」なんてのたまった自分を殴ってやりたくなった。
そういえば学会での「嗜む程度」や「素人知識」は全然嗜んでないし素人でもないとソニア博士が言っていたのを、俺はすっかり忘れていたのだった。
ちなみに、部屋からは出られた。
カブ夢は『日本舞踊をマスターしないと出られない部屋』に入ってしまいました。
80分以内に実行してください。
#shindanmaker
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