〇〇しないと出られない部屋

カラオケで96点以上出さないと出られない部屋




「お、ネズの歌」

ぴ、とキバナがデンモクを操作する音がモニターの待機音に掻き消される。
真っ白い壁、そこに突然現れる鉄製のドア。その上に掲げられた「カラオケで96点以上を出さないと出られない部屋」に、俺達が顔を見合わせたのが三分前の話。
俺達はこの得体の知れない部屋を、カラオケボックスだと思うことにした。

俺からしてみれば96点は微妙に高い設定だ。本気を出して歌って取れるかどうか。
ここは簡単な童謡が安定か、と考えていたら、テレビ画面に受信の表示が出た。
お、と思って見ればネズの新曲。キバナが入れたものだ。

「…いやさ…ネズは無理だろ」

「大丈夫、CD貰ったしな」

「ネズの曲は難しいんだよ、点取るには向かないって」

ぶちぶち文句を言っているとイントロが流れる。口を噤んだ俺にキバナが「まぁ見てなよ」と笑った。そう言うならお手並み拝見といこうか、なんて、俺は足を組んで画面に視線を向けた。

「め゛っちゃう゛たう゛まい゛」

「そりゃどうも」

ずび、と鼻をすする俺にキバナが苦笑する。どうしたのかってこの男、めちゃくちゃ歌がうまい。
ズー、と豪快にティッシュで鼻をかむ。ただでさえネズの新曲は珍しくバラードで切なくていい歌詞なのに、そこにキバナの歌唱力が加わることで更なる神曲と化した。俺は泣いた。

こいつはジムリーダーをやめてもシンガーで生きていける。そう確信した瞬間、画面が切り替わった。バン!という派手な音とともに画面に現れた数字は、97。

「お、やった」

目尻を下げて笑うキバナにギリィと勝手に歯が噛み締められる。

「い、一曲目奴〜!」

でも当然のことだ。音程、表現力ボーナス、そして俺の贔屓目ボーナスで自己採点は100を超えていた。
えてかこんなに歌うまかったん?知らない俺恋人なのに。万が一俺が安全に走って童謡のタネボーころころとか歌い出していた日にはきっとキバナのでかい体がガラケーみたいに二つ折りになるほど爆笑されていた事だろう。良かった先に歌ってもらって。

宇宙ニャースみたいな顔をしながらキバナに手を引かれて、鍵が解除された部屋から出る。
普通だったらもう少し苦労して出るような条件だった気がするのに、凡そ10分で終わってしまった。

「ナマエ、今度は普通のカラオケ行こうな」

にぱ、と笑うキバナに、俺は呆然としながら言った。

「君、芸能界に興味ない?」








キバナ夢は『カラオケで96点以上出さないと出られない部屋』に入ってしまいました。
10分以内に実行してください。
#shindanmaker

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