プラトニックワールド




「きっっっっっっっも!!!!」
「き、きもくないわ!!!」
「本当に気持ち悪い!最低!ドルオタ!自意識!童貞!」

今この話で、僕がドルオタであること、自意識ライジングなこと、童貞なことは全くもって関係ない。
僕はいいお兄ちゃんだ。あのクソ兄二人に比べればそんなの比べ物にならないくらいにいいお兄ちゃんなのだ。それは一松にも、十四松にも、トド松にも、それから妹のなまえにも同じことで、あの二人はあてにならないからこうして僕がするしかない。
なまえは僕らとは少しだけ歳が離れていて、今は高校二年生だ。その年頃の女の子って妙に色気づいちゃって、ブランド物の財布や鞄をねだったり、カレシのスペックを天秤にかけたり、危ないバイトに手を染めたりと、とりあえず、自分が女であるということを自覚して、そして誘惑してくる。
なまえは、それはそれは純粋で、天使のようで、穢れなんてそんなものとは無縁な女の子で、下品極まりないことはしない慎ましい女の子だと思っていた。
なのになんだ、本当に僕の妹なのだろうか?中学生までは、きちんと制服をきて髪の毛も真っ黒で学校生活も真面目で先生に沢山褒められていたのに、高校に入学したとたんに髪の毛の色は全く違う色になっているし、耳に穴まであけるし、それから、ほら、今、馬鹿みたいに制服のスカートが短い。
こんなので階段に上っていたら、見たくなくても下着が見えるってもんだ。
そんなことになって嫌な気持ちになってしまうのは、なまえだし、女の子は身体を冷やしちゃいけないからそんな恰好しちゃ駄目だと言っているのに、彼女は僕に下心があって注意していると思っているらしく、それでこうして喧嘩になってしまった。

「それだとパンツ見えるだろ!」
「誰も見ないってば!」
「見たいと思わなくても見ちゃうものなの!」
「それはシコ松兄さんだけ!キモい、一松兄さんの性癖よりもキモい」
「ふひひ、それはどうも」

まぁ僕は短いスカートよりも長いスカートの方が断然エロいと思うけどね、なんて本当にどうしようもないことを言う一松は、重たい腰を上げてそこで野球盤をしていた十四松を連れて外へと出ていってしまった。
僕は、自他共に認めるチョロい奴だから、こういう時に女の子にどういう風に言ってあげれば、なるべく穏便にすませることができるか分からない。こういうのはいつもトド松が上手いこと言ってフォローしてくれるのだが、今日はトッティはク合コンに行ってしまっていない。あの二人はさっき逃げるように外にでていったし、彼奴はパチンコに行ったし、あのクソ次男は今頃カラ松ガールが云々なんていって、ナンパ待ちなのだろう。

なまえは、僕をきつく睨んでからローファーを履いて家を出ようとしていた。

「だから駄目だって。もう少し長くして」
「無理」
「なんで?」
「スカート切ったもん」
「じゃあ着替えて」
「無理」
「帰りだっていつも遅いのに、そんな恰好は駄目」
「童貞には関係ない」
「童貞は関係ない!」

だから僕の厭らしい下心だけでモノを言っているわけじゃないんだってば!
今一上手く伝わらないことにイライラする一方だ。なまえちゃんは、ちっ、と舌打ちをして引き戸に手をかけようとすれば、ガラリと開かれて、おそ松兄さんが入ってきた。

「……あ、なまえじゃん」
「うわ……」
「なに、今から出かけるの?」
「だったらなに?」
「いいや、別に。……なんかエロいね」

そう言っておそ松兄さんは、なまえの生脚をまじまじと見たあとに、太腿に手を這わせてから、遠慮することなく撫でまわす。
なまえの表情が、青ざめていくのがわかった。

「し、死ねっ!!!!!!くそ童貞!!!!!!」
「なに怒ってんの?妹なんだから、触らせろよ」
「キモい、ほんとありえない」
「なまえ最近語彙力ないよ。キモイばっかり。もっとないの?『お兄ちゃん、もっと触ってぇ』みたいな」
「…………」
「そもそもそんな恰好してんのが悪いね。触ってくださいってことでしょ?」
「……全員童貞拗らせて死ね!!!!!!」

ばちん、となまえちゃんは勢いよくクソ長男の手を叩きのけてから、荒々しく引き戸を引いて家を出ていってしまった。
さすがにこれはクソ長男が悪い。けれども、これで懲りてくれればいいなと思う。

「あいつ、本当に何怒ってんの?」
「いや、今のはどう考えてもおそ松兄さんが悪いよ」
「はぁ?!俺悪くないし!」

色々と何かを言っているおそ松兄さんを横目に僕は靴を履いて、とりあえずなまえを探すべく家を出た。ちなみに、おそ松兄さんが、ああして太腿を触っていたのを少しずるいと思ったのは誰にも言えないことである。


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