そのときぼくは幸せだった




観察日記   まつのいちまつ


●月●日 天気:晴れ

おそ松兄さんとなまえが付き合っていることを知った。二人とも幸せそうで、心がちぎれそうだった。僕はなまえのこと好きなのに、どうしても僕の気持ちは届かないし、受け取ってもらえないのだろう。

●月×日 天気:晴れ

やってられない。死ぬにも死ねないし、日々を死んだように食いつぶすしか手段がなくなってきた。僕は、やっぱりなまえが好きだ。好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで、仕方がないってのに。
なまえが、僕のことを好きっていってくれればそれだけで全部丸く収まるのにね。

●月▲日 天気:快晴

おそ松兄さんには悪い気もしたけど、僕はなまえが好きで仕方がないから、僕となまえしか存在しないところに閉じ込めることにした。
話があると誘えば、なんの躊躇もなく二つ返事を返す彼女に少々不安を抱かずにはいられなかったけど、でも僕の元に来てくれたからそれでいいや。
別に殺したりはしない。僕は彼女の形が欲しいんじゃなくて、キチンと彼女の気持ちも僕に向けてほしいから。だから、最終目標としてはおそ松兄さんのことを忘れて僕の事だけを見てくれるようにすること。

●月☆日 天気:曇り

なまえに嘘を教え込んで、そのままここに閉じ込めておく方がいいかなとも思ったけど、でもやっぱりここはきちんと僕の気持ちを伝えた方がいいかなと思って、趣旨を全部話した。「おそ松兄さんはもう会いに来ないし、これからはなまえと僕の2人だけだからね」って優しく、優しく、それはもう優しく彼女に言い聞かせれば、しくしくと泣きはじめた。「私はおそ松くんが好きだから」って何度も何度も言われて、ここで初めてなまえの口から「ごめんね、一松くんの気持ちには応えられない」と言われた。
悔しくて仕方がなかったし、僕は正気を失っていたから、そのまま彼女を犯した。

●月◇日 天気;快晴

無理矢理犯した後で、僕には罪悪感もあったけれども、それをすれば彼女が大人しく僕に従うということも同時に気づいた。感度からして、僕が初めてではないということは明らかなんだけど、それでもよかった。気持ちよかった、一つになれた気がした。あんなに嫌々言ってたなまえだって最後は結局僕を求めてきたんだから、同罪だよね。その姿を記念にしようと思って、僕はハメ撮りをしたんだっけか。今日はそれを見ながら何度も抜いた。
彼女には会いに行っていない。

●月#日 天気:雨

かれこれ、一週間くらい直接的にはなまえとあっていない。必要最低限のものは与えるようにしていたけれども、口を利くことは一切なかった。
そろそろいいかな、と思って彼女の元へと向かえば案の定だいぶやつれているようだった。僕を見つめる瞳には恐怖がありありと映っていたんだけど、でも一週間も誰とも会わないで、真っ暗で窓一つもない、テレビもインターネットも何もないこんな空間にいるほうがよほど耐えられなかったのだろう、僕を見るや否や抱き付いてきた。
あ。でも彼女を繋ぎとめるものがないから僕は足枷か何かを買うことにした。

●月日 天気:曇り

ちょっとした出来心でなまえのご飯にクスリを持った。噂によるとなんでも少量で凄く効き目が出るらしく、半信半疑だったけど、使ってみればびっくりするほどだった。
苦しそうにしているなまえを見ると、あぁ僕だけがなまえのこんなはしたない所知っているんだな。と思う。
めそめそと泣きながら慰めてほしい。というので僕は「ゴミは動きませんから」と言った。はしたない、淫乱ななまえはそれでも僕と快楽を求めてきた。

●月%日 天気:晴れ

昨日のお薬の副作用か、あまり調子がよくなかった。僕はここで追い打ちをかける。
昨日のセックスの感想を無理矢理言わせた。それから、おそ松兄さんが最近どういう生活をしているかもことごとく説明した。
「好きでもない男に欲情するなんて最低だね」そう言って、初日のハメ撮りを見せながら再び無理矢理抱いた。
嬉しいか悲しいかよくわかんないけど、気持ちに反して身体は快楽に従順だった。

□月◎日 天気:快晴のち雨

あ、暫く観察日記つけるの忘れてた。けどまぁ、していたことは単調なことだから別にいいかなって思う。
あれから暫く、会うたびに無理矢理抱いた。大概は目隠しして僕がおそ松兄さんのマネするだけなんだけど。でも、僕が一松であると名乗らないまではなまえの中では僕はおそ松兄さんでいられるし、その思い込みから一気に現実に引き戻すこの感覚に高揚感とかなんとかとりあえず色々なものを覚えてやめることができなかった。そうして、行為が終わればおそ松兄さんの話をする。今日は何食べてた、とか、パチンコ負けてたとか。特別なことじゃなくて、本当になんでもあるようなそんな話をし続けた。なまえは嫌だ嫌だと、泣き喚いたけどおそ松兄さんの話だけはやめなかった。
で、それが一か月?くらい前の話で、ここ一か月は僕は手を出さなかった。でもおそ松兄さんの話をやめることはしない。最近、なまえが、ぼーっとすることが多くなったし、一気に涙脆くなった。僕がいないとダメなんだなぁって思わせるようなそぶりが多い。優しく優しく、慈しむように扱った。無理に行為を強いることはしないし、寧ろ優しくキスくらいでとどめておいた。
犯してやりたい気持ちなんてそんなもの常時存在したけど、それを我慢するくらいでなまえの気持ちが手に入るかと思うとそれはたやすい代償だよね。



パタン、とそれを閉じて僕はポケットから鍵を取り出した。
じゃらじゃらと沢山鍵が連なったそれから、今必要なものを選んで鍵穴に差し込んだ。辺りは真っ暗で、薄暗くて、こんなところにずっといればそれは気も狂うだろうなぁ。なんて呑気に考えながら奥の方へと足を運ばせた。
かつん、かつん。と自分の靴がコンクリートに擦れる音が嫌に響く。すれば、それを待っていたかのように奥のほうでガチャガチャと鎖が音を立てた。

「一松くん、一松くん」

愛らしい声が僕の名前を呼んだ。返事はしないで、そのまま鉄格子の隙間から伸ばされる細くて白い指に自分のを絡める。

「おかえりなさい、一松くん」
「……ただいま」

にへら、と笑うなまえの笑顔はあのときのものと少し違うけれども、でもこれはこれで本物だし、僕が望んだものだからいいんだ。少々歪であろうと、なまえはなまえだということに変わりない。

「あのさ、今日おそ松兄さんが」
「……一松くん」
「なに」
「おそまつにいさんって?一松くん、兄弟いたの?」

あ、そうだった。ついつい出てしまった癖に、彼女にごめんと謝った。
僕との生活は、おそ松兄さんと会えない生活は、なまえにとっては耐え難かったらしい。それに、更に追い打ちをかけるように始めた僕の行動は彼女の気持ちを壊すには十分すぎていた。彼女はここから逃げられないことを知っていたから、だから、ここで生きていくために、大好きだったおそ松兄さんの記憶を全部手放した。
いやぁまさか、僕が望んだとおりにすべてが進むとは思ってもみなかった。鍵を開けて、なまえの横に腰掛ける。

「なまえ」

名前を呼んでから、優しく優しくキスを落とした。


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