愛、愛するとは | ナノ

▼ そっ、それもそうだ
誰でもいいから、助けてほしい。
確かに何の装備もなしで魔王の要塞に挑んだ私も馬鹿である、同じ顔が六つも並ぶこの円卓の中で一人肩身の狭い思いをしているのも、完全に私のミスである。
しかし、そうではないだろう。どうして私が悪いみたいな雰囲気になっているのか全く理解ができない。
しかも、残念なことに私はこの六つ子の違いが分からない。皆、彼奴に見える。だらだらと嫌な冷汗が流れて、喉がからからに乾く。出してもらったお茶を思いっきり飲んだ。

「いや、だから…松野カラ松くんは婿ではなくてですね」
「だってさ、カラ松」
「ふっ、なまえはツンのおおいツンデレだからな。照れ隠しさ」
「あんな顔してるよ?!照れ隠しではないんじゃないかな!!!」
「いったいよねぇ〜」

いったいよねぇ〜じゃないから。
こっちは毎日、おたくのカラ松くんに付きまとわれ、婿発言され、家まで押しかけられて、意味の分からないプロポーズとプレゼントに迷惑してんだ。
警察にも行ったが取り扱ってくれないし、本人に言っても全く理解しない。それどころか、私が照れ隠しをしていると思い、さらにエスカレートしていく一方だった。
こうなれば、ご両親もしくは兄弟のかたに取り合ってもらおうと今日は松野家にお邪魔させてもらったわけであるが。
さすが一卵性の六つ子。皆同じ顔してるし、考えることは多少違えど根本は同じみたいだ。

「これ以上、こういうことをされると……」
「兄さんたち、俺はなまえの婿だからな!」
「あーーうん、いいんじゃないの。おっぱいも大きそうだし…でもまぁ、もうちょっとおしとやかなの選べよ。ずっと怒ってるぞ」
「そのぶん、笑った顔が可愛いんだ」
「あぁ、もう本当に六人そろってクズでごめんなさい!ほら、カラ松も謝って!!」

緑のつなぎの兄弟が唯一の常識人らしくまともな発言をしてくれるのだが、どうも突っ込みが追いつかない。
カラ松の代わりに僕が謝ります、なんて言って私に頭を下げた。それを見ていたのピンクのつなぎの兄弟が、おもしろーい!なんて言いながらカシャカシャと写真を撮る。
なに、この狂った空間。頭が痛い。とりあえず、ずずず、と再びお茶を啜った。

「えー、っとなまえちゃんだっけ?カラ松、痛い奴だけどさ。根はいい子だよ。優しいし、喧嘩も強いし。ある意味一番素直だから、教育次第でニートじゃなくて専業主夫にすることも可能」
「さすが、おそ松兄さんっ…!!」
「いや、養わないです。無理です、こんなサイコパス」
「なかなかいい物件だと思うよ〜カラ松にいさん。なまえちゃんが夜遅くにしごとが終わっても迎えに来てくれるしね」
「……まぁ、クソ松だしそれぐらいは」
「ちょっと、相手が迷惑してんだから!!皆、そんなカラ松をごり押しすんなって」
「チョロ松〜、お前考えてもみろよ。な?六人が五人になれば、色々取り分も増えるんだぜ?おまけに、酒の飲み場が増えるだろう」
「……取り分…か」
「チョロ松兄さん、よかったね!お小遣い増えるよ。にゃーちゃんに貢げるよ」
「寝床の面積も増えるしね」
「そうか……。なまえさん、よろしくお願いします」
「はい、じゃあかいさーん」
「やきゅう?」
「うん、野球だよ。十四松兄さん」

ぞろぞろ、と一人を残して出ていってしまった。
何が何だってんだ、なんで婿に取ることで話がまとまってるんだ。意味が分からない、苦情を言いに来たのに妙に丸め込まれてしまった。
再三、お茶を飲む。
私の横には、嬉しそうにこちらを向くカラ松がいた。

「あんたら、全員サイコパスか」
「ふっ……これは運命の導き」
「……はぁ」

仕方がない、引っ越そう。
今の物件、仕事場からも近いし色々と便利だったのになぁ。帰ったら不動産屋に行こう。
連作先も何故か知られてしまっていたし、携帯も解約して電話番号を変えよう。
家に帰ろうと、コートに手を伸ばした時に、体が急に熱くなるのを感じた。ふわふわとした感覚もあとからまわってくる。
ぐにゃり、視界が歪んで天井が見えた。

「…なまえ」
「……なに」

さっきまでの嘘みたい。低く甘い声が、耳元を這う。

「好きって思ってくれるだけでいいんだ。好き、って」
「は、ちょっと……何……」
「俺、どうしてもなまえの傍がいい。なまえじゃないといやだ」

跨ってきて、そのまま指と指を絡める。
なんだろう、この感じ。身体が熱くてどうにも正常に思考が回らない。色々なものがどろどろと溶けていく感覚がする。
ふ、と耳に息を吹きかけられて大きく肩がはねる。こんなこと今までなかったのに。

「ごめんな、なまえ。さっきから飲んでるそれ、媚薬混ぜてるんだ」
「び、やく?」
「気持ちよくしてあげるから」

首筋に顔をうずくめられて、そのまま吸い付かれる。痺れてしまいそうな感覚に、思わず声が漏れた。それを聞いた彼は嬉しそうに顔を歪める。

「どうにも、セックス以外なまえを繋ぎとめる方法が思い浮かばなくてな」

少し悲しそうに笑ってから、瞳にキスを落とされた。
--
強襲同居型(あなたの傍にいさせてよ型)
おしかけ女房型(私はあなたのお嫁さん型)









prev / next

[ back to top ]