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身体がふわふわして、なんとなく気持ちが悪い。
がぁがぁ、といびきの音が何重にもなって耳にはいってきて、正直うっとおしい。寝るねらいつもの所で寝ろよ、そうは思うけど酔いに酔って爆睡しているこいつらを今更たたき起こすことは出来ないし、ニートでゴミな俺は体力もあまりないので無理だ。
けっ、まだ一杯目のグラスに入ったをドクぺちびちびと飲む。

「一松、お前今日出来上がるの遅いな」
「……かもね、なんだか酔えない」
「なに、悩みごと?お兄ちゃんが聞いてあげよっか」

酔ってんだか否か、おそ松兄さんはなかなかによみにくいヒトだ。宅飲みを初めて何時間になるかは忘れたが、未だにチャーハンを食べてテレビをみて笑っている。
手羽先は残りひとつ。もったいないから残しておこう、どれでもいいか。誰かさんの好物としている唐揚げをいくつか頂戴した。

「なぁ、一松」
「……なに」

ぶつ、と派手な音がなってテレビの電源が切られた。何故か、あいつらのいびきも止まっていて、いやに静かになった。

「いらないなら頂戴」
「何を」
「兄ちゃんに頂戴」
「だから、何を」
「……なんだと思う?」

質問に質問を返すところがこの人らしいと思うと同時に、背中が何となく寒くなる感覚がした。兄さんは、ただひたすらににこにこにこにこしている。それがいつもと違うような感覚がして、非常に気持ちが悪い。
なまえのことを言っているのかな、なんて思った。なんで、って明確な理由はどこにもないけれどもなんとなく。
どうにも、胸がざわざわする。
兄さんはなまえの事が好きってことでいいんだろうか。一瞥すると、ぱちっと目があって「俺は別に嫌いじゃないんだよねー、でも一松は好きでしょ?だから、許可とったほうがいいかなって」なんて言い出す。
別に好きじゃない、好きじゃない。あんな女どうなっても構わない。そう言えばいいだけなのに、言葉は喉もとに突っかかったままなかなかに出てこない。
それを見た兄さんはふっ、と軽く笑って指をさした。

「最後に残してた手羽先のことね」
「……え、あ。手羽先」
「残してるから。いらないならもらうよ」
「……どうぞ」

なんだよ、クソ恥ずかしいじゃないか。何がだよ。紛らわしいんだよ、キチンと言えよ目的語を、馬鹿かよ。
ぐるぐる、勘違いも甚だしい。悪態の一つすら出てこない。完全に動揺しているのが自分でもわかっていた。それを見たおそ松兄さんはもう一度ふっと笑った。

「まぁ、手羽先の話だけじゃないけどね」







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