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「一松兄さんなにしてるの?」
「……別に」
「あ!!!おそ松兄さんがね競馬で勝ったんだって!!宅飲みするって!!!ね、トド松」
「ん。あれ、なまえちゃんは?」
「帰った」
「へぇ」

今更ながらに襲ってくる罪悪感に、俺は暫くその場から動くことができなかった。
後悔、はしているのかもしれない。反省、だってしているのかもしれない。けど、やっなぱり、あの表情を思いだすと胸がこれまでになくドキドキして変な興奮が抑えられない。
なんとかして平常心を取り戻そうと壁に向かう形で体制をとっていれば、おそ松兄さんが不思議そうに俺を見て飲まないの?と言った。
さっきまで静かだった部屋はだんだんと煩くなり、最後のあいつが帰ってきたところで全員そろっていた。さっき俺となまえがいたときの静かさなんて嘘みたいだ。

「へい、ブラザー。今日はなんやら、いつもと違うようだが?」
「おかえりー、おそ松兄さんが宅飲みするってさー」
「そうか」

よっこらしょ、とアイツが俺の隣に腰掛けた。どこに行ってたの、と聞くとすこしきょとんとした表情をした後に、「カラ松ガールズと少しな!!」なんて言うから軽くボコっておいた。
もし仮に、さっきあったとことをコイツに告げれば俺の事を怒るだろうか。それとも、なまえに会いに行くだろうか、逆に俺が謝りに行かされたり?なんてぐるぐると色々と考えていると、体調が悪いのか?と少し涙目になりながら聞いてくる。うっとおしいったらありゃしない。カラ松の分のグラスにどばどばと酒を注ぐ。

「カラ松兄さん、それ麦茶ハイ??」
「そ、そうみたいだな」
「美味しい?ね、美味しい?」
「………ん、いも焼酎の味しかしない…かも」
「もーこいつ飲めないんだから、余計なことすんなって」

チョロ松兄さんが怒って、それをぐびぐび飲み始めた。かなりピッチが高い、すでに出来上がってる可能性もある。そんな兄さんをみて十四松は楽しいね!なんて言いながら、トド松とカシスオレンジと書かれているチューハイを開けていた。

「ってかさぁ、野郎六人で飲んでも面白くないってばぁ。なんでなまえちゃん帰っちゃったのさー」
「用事でもあったんじゃなーい?」
「野球かな?」
「野球じゃないよ、十四松」
「一松なにかしってるか?」
「…別に」

うっとおしいことこの上ない。なんだか喋るのも面倒くさい、手羽先に手を伸ばす。
そう言えば、今日は外出するわけでもないのに朝からマスクを付けてたんだっけか。どうりで少し呼吸がしにくいと思った。

「あれ、一松兄さん」
「なに?」
「そのマスク…、唇の形ついてるよ?」
「あー、ほんとだ。ピンクのグロス?口紅かな、ついてるよ。そういうデザインなの?」

何のことをいっているのか。とりあえず外して見てみるとそこには控えめながらにも小さく口紅の跡と思われるようなものが残っていた。はて、心当たりはあったかな。と場に流されてふわふわしてきた頭で考える。
あぁ、俺なまえにキスしたんだっけ。きっとそれだ。思ったよりも小さな口なんだ、なんて考えながらそれをまじまじと見ていると再び横から声が入る。
それもなんだか無性にうっとおしくてたまらなかったから、マスクを口に押し付けておいた。

「んっ?!一松?」
「……、ソレ間接キスにでもなるんじゃない?」

そういえば、色々と言ってきたような気もするけど無視したから覚えていない。


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