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いつもの定位置で、特にすることもなくぼんやりとしていた休日の昼下がり。
ニートな自分は特にすることもなく、暇を持て余していた。二度寝でもしようかと考えたのだが、そういう日に限って全くもって睡魔が襲ってこなかったりする。猫に会いに行くのもいいと思ったのだが、何故か足はそこに向かわなかった。
ふぅ、とため息をついて下に向いていた視線をナナメ横上にずらす。

「ね、カラ松兄さん。僕、心底この世は神秘に満ちてると思うよ」
「ん?」
「六つ子の中で女の子に免疫があるのは、僕だけだと思ってたもん」
「確かに、トド松は女の子と仲がいいからな」
「まぁね。カラ松兄さんはチョロ松兄さんくらいにクソ童貞だと思ってるし、女の子にモテないと思ってるよ」
「俺の魅力に気づかないだけだろう……ふっ、仕方がない」
「ねぇ、聞いた?なまえちゃん、こいつずっとこんな調子なんだよ、なんで仲良くしてあげてるの?ナルシスト通り越してサイコパスなんだよこの人」

ちゃぶ台を囲んで会話をする三人が目に入った。
六男、トド松。次男、カラ松。それから、なまえ。
なまえのことはあんまり知らない、ある日アイツが急に友人を連れてきたと言って紹介された人だったりする。
キラキラした優しそうな雰囲気で、第一印象から自分とは住む世界が違う人なんだと直感的に思った。無職、六つ子(全員男)、童貞な俺達にはセックスできる女も重要だと思ったけど、それ以上に女の子っていうだけでこの世の可愛さすべてをかき集めたような、とんでもないような存在に思えたし、なまえは誰にでも優しく、素直でカラ松以外との奴等ともすぐに仲良くなっていた。
気がつけば、週末はこちらによく遊びに来るようになっている。

「サイコパスでも、カッコいいと思うよ」
「さすがなまえ」
「あーーー、なまえちゃんそんなこと言ったらこいつつけあがるから駄目だっていつも教えてるよね?」
「ご、ごめんなさい……つい」
「いろんなgirlを魅了してしまう俺の罪さ、気にするな」
「ほらね?!っていうか、こんなのをカッコいいとか言ってるなまえちゃんも物好きを通り越してサイコパスだよ」
「え」

なまえは、彼奴に冷たい視線を浴びせたり、暴力を振るったり、悪く言ったりしない。どんだけ格好つけてイタイ発言をしても、TPOにそぐわない服装をしても、カッコいい等とアイツの望む言葉を与える。
逆にアイツは、そんななまえをカラ松ガールと言ったりしない。まぁ、たまに厨二病的なことは言ってるっぽいけど。
俺はそんな2人が心底気に食わなかった。両者とも、本当は泣き虫で意気地なしで、ダメダメなくせに、周りによい風に思われたいのかいつも優しさを押し付けるのだ。
ふぅ、ともう一度大きく溜息をついて立ち上がる。ポケットにタバコがないか確認すれば、ねこじゃらししかなかった。
仕方がない、、適当に誰かのをもらっていこう。部屋中を適当に漁っていれば、彼奴が不思議そうに首を傾げていた。

「一松くん、何探してるの?」
「……タバコ」
「僕の貸そうか?」
「いい、トド松の甘い」
「じゃあ俺のは?」
「いい、いらない」
「どこ行くのさ、兄さん」
「……いつものところ」
「気を付けろよ」
「いってらっしゃい」

お前らのせいで、出ていかないといけない部分もあるんだけど。と思ったりもしたが、そんな言葉を呑み込んで少し寒い外へと出かける。


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