6
何がムカつくかって、それはすべてに決まってる。
殺意が湧くほどではないが、自分ではどうにも制御ができないほどであることは細い手首を無理に掴んで二階に連れていく様子からして明らかなことだろう。
なまえは脅えた表情で僕を見ていた。気持ちが、僕の左胸の奥の方が、何だかどくどくしている。なんだろう、この気持ち。

特に何もすることが無い日々に、猫と戯れるという行為は僕の中での数少ないルーティンとなっていた。だから、それを行わないと気持ちが落ち着かない。それをして、暫くして家に帰ろうと小道を抜ければ向こう側から声をかけられる。
僕の兄だった、面倒だから聞かなかったことにしようとそちらに反応を示すことなく帰路に着けば、二度めに僕を呼ぶ声は弟だった。
さすがに可哀想な気もするから、振り向けば目に映るは見せつけてくれる二人だった。
へぇ、なんだよ仲良く手なんか繋いで、アベック気取りかよ。
そちらに目線を投げれば、彼女の表情は妙に強張って見えた。やっぱり、前の事少し気にしているのかも。
そんな風に考えていた僕は馬鹿で、家に着いて居間に上がろうとした時に彼女が僕に声をかけてきた。それはいつもと何も変わらなくて、寧ろあの時のことをなかったようにしてしまうようにも感じる。
僕は、こんなにもなまえを傷つけたことを思えているのに彼女はなかったことにしてしまうのか。そう思うと、僕の兄の事も彼女のことも妙に憎たらしい。

「……痛い」
「あっそ」

どすどすと階段を上がり、彼女をソファに投げる。
それから、僕はタンスを漁り僕と色違いの青のパーカーとクソダサいサングラスを持ち出して彼女の腹部に跨った。それから荒々しく、それらを彼女に投げつける。

「はい」
「……?」
「それ使って、自慰でもしてよ」

何を言っているのか分からない、そう言わんばかりになまえは不思議そうに僕を見た。
僕だけ気にしてるだなんて不公平だ、僕だけこんなにもやもやするのだって気に入らない。なまえも沢山傷ついて忘れてしまわないようになればいい。僕を見るたびに、凄く脅えた顔をして僕のことを忘れてしまわないようになればいい。
ほら、はやくしてよ。ぐいぐいと彼女にそれを押せば困惑しきった表情で僕の名前を呼ぶだけだった。
うざったいなぁ、クソ松に握られていた方の手を掴んで指を口に含んだ。それから、舌でなぞったり、ちゅっちゅと音をならしながら厭らしく吸っていけばなまえの脅えた表情には少しとろけるようなものも見える。

「指、吸われるだけで感じちゃうの?素質持ちなんじゃない?」
「…そんなんじゃない…」
「気分もノッてそうだし、早く済ましてよ」

嫌がる彼女の顔は相変わらず僕の鼓動を早くさせていく。ほら、早くして。そう言って彼女のスカートの中に手を滑り込ませて、これでもかというほどにねちっこく撫でまわす。彼女の吐息は次第に鼻にかかったものへと変わっていくのがクソ童貞な僕にもわかった。
こんな真冬なのに、薄いデニールのストッキングなんか履いてきて馬鹿なんじゃないの。誰に見せるつもりで履いてきてるのさ、破ってしまおうか。

「ほら、早くして」
「……っ」
「もしかして、したことないの?」

冗談半分に、茶化すつもりで言ったつもりなのに彼女は恥ずかしそうに首を縦に振った。は、意味わかんない。何こいつ、生きててオナニーのひとつも知らないってどういうつもり?女の子はやっぱりしないものなの?
彼女を襲ってやろうとか自慰を強制している僕は悲しいかな童貞なもので。予想外の反応に僕の脳内はいろんな感情がぐるぐるとまわる。

「セックスもまだ?」
「……それは、いいたくない」
「あっそ」

言いたくないってことは、したって考えていいのかな。彼女の太腿を這う手の力は強くなって柔いそこに食い込んでいく。へぇ、何も知らないふりして誰かに股を開いたことはあるんだ。そう思うと腰の方に何かが響く感覚がした。あ、勃ったかも。
羞恥で困ったように僕を見る彼女の表情も煽るようにしか見えなくなった、彼女の下腹部に固くなったそれをあてる。

「教えてあげるから、してよ」
「……で、も」
「いいから。早くしないと誰か来るよ」
「今日の一松くん、おかしいよ。どうしたの?」

可笑しいのはなまえのくせに。怒鳴ってやりたい気分だったけどなんだか少しかわいそうだと思ったし、兄弟の誰かがこられても困るからやめる。
もういいや、どうせ非処女でカマトトぶってんだろうかし僕のソコも勃ってるし一回セックスしてから下にでも降りよう。
彼女のストッキングに爪を立てて力を入れれば、びりと小さく音がなる。

「ダメっ」
「何が?」
「そういうのは、違う」
「なんで、どうせもう誰かに股開いてるんでしょ」

とりあえずダメ。そう言われて手首を握られ抵抗される。ぐいぐいと押されてしまうがあまりにも力が入っていない、これで本気だとしたらこいつかなりのマゾなんじゃないかな、僕が言えたことじゃないけどさぁ。

「一松、なまえ。どうかしたのか?」

やっぱり気になるんだ。クソ松がこちらに来たので僕は泣く泣く彼女から退く。

「なんでもないよ…」
「?それ、俺の」
「僕が貸してあげた」
「???そうか」

クソ松がこんな馬鹿でよかったと思う日は今日以外ないだろう。残念ながら勃起はおさまらないので、トイレで抜くことにするか。純粋無垢に見えるなまえが知らない男に抱かれることを想像すると捗るんだろうな。そう考えるとそれは一層質量を増した。




前へ 次へ