きみに繋がる糸

抱きしめた彼女は、壊れてしまいそうに細くて冷たかった。
急にいなくなったあの日から、自分の中の何がいけなかったのか毎日毎日考えた。考えに考えて、そうしてようやく答えが出たのだ。
俺の愛情が足りなかったんだ。

震える彼女の手を引いて、いなくなってしまったあの場所へと戻る。
一松のことはあとで聞き出せばいい。彼女が俺を捨てるなんてことは二度とさせない。
いなくなったあの日から、幸福しか見いだせなかったあの日からすべてをやり直すことにした。
合鍵を使って鍵を開けて、彼女を中へといれる。靴とコートを脱がせてから脱衣所へと向かった。

「もう、何も考えなくていい。俺の事だけ考えてくれればいい」
「カラ松」
「全部俺が引き受けよう。なまえは何もしなくていい」

彼女の服に手をかけて、丁寧に脱がせていく。
少し見ないうちに痩せてしまったんじゃないだろうか。色ももともと白いのに、今は青白い。
全て脱がせて彼女を風呂場へと向かわせる。一切抵抗しなかった。差し出した手に控えめに自分の手を乗せると彼女は俺の方を見た。

「カラ松、私」
「すまない。今は言葉でしか表すことができない。でも、必ずなまえが満足するような愛を与えよう。だから、もう俺から逃げないでくれ」

そんなつもりじゃなかったのに、これでもかと言うほどに声は弱弱しかった。
彼女が、何を悩んでいるかは前々から知っていた。彼女の悩みにこたえる方法を知らなかった俺は、それを見てみぬふりをしていた。きっときっと、だから罰が当たったんだ。
自分のズボンの裾をまげて風呂場に入る。

「頭を洗おう。おいで」

ここ、風呂椅子を指さして彼女を座らせた。
彼女は何も話さない。脅えているのか、驚いているのか、それとも。

彼女は俺から捨てられるのを嫌がっているようだが、それは俺だって同じだ。
本当の俺はドロドロのぐちゃぐちゃな性格で、なまえなんかと釣り合わないほどに汚い。
彼女を、独占して俺だけのものになればいいと常々思っている。
苦楽を共にしてきた兄弟でさえも触らせたくない。俺だけの、松野カラ松だけのなまえでいてほしい。
そんなことを言えば、彼女は俺の事を嫌ってしまうだろうと思っていたからあの頃は、ひたすらにそんなものを隠してきた。
でも、それがダメだったんだと今気付く。彼女は俺からの愛に飢えているんだ。俺が与えてあげないと、彼女は誰からも受け取ることができない。
俺だけになればいいのに。俺だけが彼女の事すきならいいのに。

「なぁ、なまえ」
「……なぁに」
「もう、いいからな。俺がなまえの全てだから、もう何もしなくていいぞ。俺がなまえが吐く息だけで生きていけばいい」

ちゅ、と久しぶりに彼女の唇に触れた。
凍えるように小さく震えていて、愛おしい。伏し目がちな彼女の表情は、この上なく美しい。

「なまえが、俺なしでなにもできなくなっても俺はなまえの傍にいるからな」

毎日言えば、本当にそう思ってくれるだろうか。