「やっぱライジングシコースキー兄さんは違うね」
「うっわ、レイカのばっかり」
「仕方ないよ、ドルオタだもん……あ、なまえちゃん!」
「なまえ、ねぇちょっとこれ見て」

チョロ松くんに用があって松野家にお邪魔すれば、居間ではおそ松くんとトド松くんがスマホをみてあれやこれやと言っていた。私に見せたいものがある、とおそ松くんはそう言ってから私を二人の間に半ば無理矢理座らせてから、トド松くんがスマホを見せてくれる。

「……こ、これは?」
「ライジングシコースキー兄さんのSNS」

大方予想はついていたけど、チョロ松くんのSNSは大好きなアイドルの子関連ばっかりだった。仕方ない、というか、別にどうでもいいというか。どっちでもないけど、私は小さく息を吐いてから、フリックして流れていくチョロ松くんの呟き等々を見ていく。
レイカってAV女優だっけと何を悪びれる様子もなくいうおそ松くんに対して、トド松くんはそっちに目を向けることなく頬杖をついて、アイドルだよとだけ返した。
と、いうかそもそもこんなものを私に見せてどうしようというのだろうか。ちら、と壁にかけてある時計をみる。

「なまえちゃんもさ、こんなやることと言えばシコってるシコ松にさ色々やられてるんじゃないの?」
「し、シコ松……?」
「そう、シコってばっかだからシコ松。もっとわかりやすくいうと、オナニーばっかしてんだよねアイツ」
「へ、へぇ」

ちょっとだけ、聞きたくなかったな。と特に悪気があっていったわけじゃないんだろうけど、そんな風に思った。おそ松くんは、とんとんと二回私の背中を叩いてから、近くに置いてあった漫画を手に取って、ぱらぱらとめくりはじめた。
シコ松、チョロ松くんはおそ松くんのそんなところが嫌いだと言っていたのを思い出す。デリカシーがない、テンションだけのがさつ人間ってお酒が入るとよく言ってた。

「自意識ライジングだしね〜」
「自意識ライジング?」
「そう、自意識ライジング」

自意識ライジング、と聞きなれない言葉だなと思っていればトド松くんが説明してくれた。

確かにチョロ松くんは、ちょっとそういうところがある。そういうところ、を自意識ライジングと呼ぶのかはちょっと微妙なところかもしれないけど、でもちょっぴり、だいぶ、理想は高い。自分に対しての理想だって高いし、私に対しても高い。それは私に対して、というよりかはチョロ松くんのカノジョとして相応しいあり方といったほうがいいのかもしれない。女の子についてちょっぴり理想を抱き過ぎているチョロ松くんの、理想とする彼女は優しくて慎ましい、私にはとうていできそうにないものだ。見た目に対しでもだし、性格とか言葉遣いとか、もうなんか……。
こほん、と咳払いをしてから私は時計を再度見る。

「大変だね、チョロ松兄さんの彼女って」

トド松くんは、ちょっぴり私に蔑むような視線をとばした。


今日はにゃーちゃんの限定CDも買えたし大大大大満足。帰ったらさっそく聞こう、あ、でも、この前買ったDVDもまだ見ていないからそれを見るのもありだ。僕の足取りは軽いまま家に着いた。
ぽいぽい、と散らばった赤のスニーカーや、一応端には置いてあるものの少し不揃いなピンクのスリッポンとそれから、隅っこに置かれたパンプスをみてから僕は大体を把握した。面倒な奴がいるな、と僕は溜息をついてからとりあえず今日の戦利品は、二階のほうに避難させておくことにした。前みたいに、間違って踏まれて割られてしまうと、次こそ本当に縁を切ってしまいそうだ。だからまず、これを見つからないように……とそっと靴を脱いでから、二階へと向かう。
そして、丁度その時居間の向こう側から三人が会話しているのが聞こえた。日頃はそんなことどうでもいいんだけど、今日はなまえが僕のことを話しているようだったからついつい気になって、趣味が悪いとは思うもののこっそりと聞き耳をたてた。

「な、なんていうか……まぁ、チョロ松くんの自意識ライジング……は、すごいとき、あるけど……」
「うん」
「……ちょっと女の子に夢見過ぎかなってところはある……」


なんかすごいムカつく。僕は今日の戦利品を安全な所においてから、勢いよく居間の扉を開けた。
ばん、と大きな音がなれば三人が、特になまえはびっくりしたような表情で僕を見る。二人の間を割ってはいるなまえの腕を引いて、二人から少し距離をとった。

「チョ、チョロ松くん……」
「……」
「こ、これは、その……っ!?」

ムカつく。
下手くそな言い訳で僕をごまかそうとしているものムカつくし、僕に向かって盾突いて、自分が出来てないのを僕が理想が高いってそんなもののせいにして、ほんとこの女。
僕はひとさし指と中指を彼女の口に入れてから、舌の奥の方をぐっと押し付けた。おえ、とえづくなまえの口からはだらりと涎が垂れる。

「お前もたいがい自意識ライジングしてるからね?気づいてる?」
「っ、ふ、ぇ」

舌を無理に押し付けたり、上顎や歯と歯茎の境目をなぞったり、舌を指で挟んだりすれば、だらりとなまえの口から垂れる唾液が増える。二人もやめておきなよ、と僕を止めようとしたけどそもそもこれは僕となまえとの問題で二人には関係のないことだ。無視していれば何も言わなくなったし、二人ともそそくさと家から出ていった。
泣いて嫌がるなまえが苦しそうに僕の腕を掴んだから、とりあえず抜いてあげる。もちろん僕の手はなまえの唾液でどろどろになっていた。

「お前のせいでこんなに汚くなったじゃん」
「……」
「舐めて」

はぁはぁと息を荒くして、頬が少しだけ赤いなまえを見ていると怒りとはちょっぴり違う感情が芽生えてくる。
一向にいうことに従わないなまえに腹が立って、濡れたその手をなまえの頬になすりつけた。