下品

ピンポーン、ピンポーン。あれれ、おかしいな。いつも、インターホンを二回押せば出てくるのに、買い物にでも行ってるのかな。そう思いながらインターホンを何度も押していれば、近くで子供のはしゃぐ音が聞こえた。そうか、今日は平日だからなまえちゃん、お仕事で家にいないのか!なるほど、謎を理解した俺はポケットから合鍵を取り出して、鍵穴に差し込んだ。かち、と音がなってドアノブを捻るけど、ドアは開かなかった。これもどういうことなのだろう、とガチャガチャと何度も押したり引いたり、捻ったりするけど何も変わらない。
壊れたのかな、ともう一度鍵を捻ってからドアノブに手をかければ、さっきとは打って変わってすんなりと開いた。
あれ、鍵かけてなかったのかな、意外に抜けてるとことあるかなぁ〜、お兄ちゃん心配だよ〜。な〜んちゃって。
ぽいぽい、と玄関で靴を脱いでから小さなキッチンとお風呂場、洗面所のある廊下を抜けてから襖を開けた。

「なまえちゃん帰ってくるまで、ここで待ってよっと」

はぁ〜、今日はお寿司とってくれたりしないかなぁ……、もちろん俺が出すよ。今日はいっぱい勝っちゃったもんね!
どすん、とテレビの前、ベッドを背もたれにするような形で座る。
やっぱり女の子の部屋は最高、いい匂いするし、セックスできるし。
何か面白いテレビでもやってないかなあ、なんてテーブルの上に置いてあるチャンネルでテレビの電源を付けた。ちっとも意味の分からないニュースに、子供向け番組、お昼のサスペンスと昔流行ったドラマ、それからテレビショッピング、一通り見てどれも面白くないから、電源を落とす。
はぁ、なまえちゃん帰ってくるまで何しよっかなぁ…。
もう一回、打ちにいくのもありかも。なんて考えていると後ろのベッドがごそごそと動くのがわかった。何事だ?とそっちのほうに身体を捻る。
ベッドの脇には、ストッキングと最近流行ってるふわふわした感じのスカートが無造作に落ちてあった。几帳面ななまえちゃんが、そんな風に扱うかな。なんて、思いながらそれを見つめていると、そう言えば玄関になまえちゃんが仕事のときにいつも履いて行っている靴も置いてあったような……。
つまりは、そういうことか!と、俺はそももぞもぞと動く布団を捲りあげた。

「なまえちゃん」
「…………」
「なまえちゃん?」
「帰って」
「なんで?」
「今日は寝かせて」

なまえちゃんが、寝返りを打ってこっちを向いた。

「風邪ひいて、熱が出てるの」
「あれま」
「おそ松くんにうつすのも悪いし、明日までによくなりたいから、今日はゆっくり寝かせて」

ぐったりして、苦しそう。おでこには冷えピタを貼っていて、時々ごほごほと咳き込んでいる。
なまえちゃんはカラ松と少し似てるのかも、頬っぺたを触れば熱かったし、顔が赤い。とろんとした瞳で俺を見てからもう一度「帰って」と言って、ゆっくりと目を閉じた。

「薬のんだ?」
「飲んだよ」
「ふぅ〜ん」

なんか、もやもやするんだよなぁ。と俺は首を傾げた。
よしよし、となまえちゃんの頬っぺたを優しく撫でてから、一番熱がこもってそうな首に手をまわした。すると、なまえちゃんは「ありがとう、冷たくて気持ちいい」とだけ返してから、又、ごほごほと咳き込んだ。
風邪のなまえちゃんの看病をするのはこれが初めてだ。どうにかしてやりたいけど…………あぁ。

「思いだした」

そうだ、俺の抱えていたもやもやってのは、この状況に対しての既視感だった。
風邪を引いているカノジョ、それを看病するカレシ、そうだ、昨日AVでみたシチュエーションだ。そうそう、AV男優が。とろんとした顔に欲情して風邪ひいてる彼女とセックスする話だ。なまえで想像して抜いたんだっけ。
これは、チャンス!
首に這わせていた手を、鎖骨をなぞってから胸元へと。ふにふに、とおっぱいを揉めばいつもよりも感触が生々しいというか、なんか……。

「ノーブラ?」
「帰って」
「なまえちゃん、準備してきた感じ?!」
「帰って」
「大丈夫、なまえちゃんのエッチな期待にはちゃんと応えるし!」

二回ほど鼻の下を人差し指で擦ってから、おっぱいを揉んでいる手を一旦離す。それから、ぐいぐいとなまえちゃんを押して、自分も無理に布団の中にもぐりこんだ。

「いつもよりもナカ温かくて、気持ちいーんだろな」
「帰ってってばぁ」
「心配すんなって、ちゃあんと気持ちよくするし、なまえちゃんは寝てればいいから」

チッ、と舌打ちをされて出ろと言わんばかりに胸元を弱々しく押される。俺は両手でそれを掴んでから、なまえちゃんとの距離を詰めてキスをした。
この前、兄弟全員で風邪引いたときも一松にディープキスされたらうつされたし。もしかしたら、なまえちゃんの風邪もなおるかも!

「本当に、帰って」
「熱出てる時は運動した方がいいんでしょ?」
「……」
「セックスも運動じゃん!気持ちよくなって風邪治るとか、サイコーじゃない?!」

今やめろって言ったって、なまえちゃんは風邪ひいてほぼ動けないし。元気な時でもそんなに力ないから。
掴んでいた手を離してから、もう一度キスをする。ちゅ、ちゅと何回も押し付けるだけのキスをしてから、もう一度おっぱいに触れようとした時に、病人とは思えないほどに俊敏に腕を掴まれる。それから、勢いよく起き上がり、なまえちゃんは俺の手を引いてからベッドをおりて、ずんずんと廊下を歩いた。

「ちょ、どうしたの?」

何をどれだけ話しても、何にも返してくれない。
玄関まで着いたら、ガチャとドアを開けられてから思いっきり背中を押される。そんなことされるとは思ってない俺は、とっさのことでよろよろとよろめいて外に出た。なまえちゃんは、俺の方を一切見ずに、ぽいぽいっと俺の靴を投げてから、バタンと勢いよく扉を閉める。

「……」

なーーんだ、全然動けるじゃん。