「はぁ〜、やっぱ都内に一軒家は無理だよな〜!」
「…うん」
「ボロいし、冷暖房もないけど!風呂とトイレはちゃんとあるしいいじゃん!」
「うん」
「ね、なまえちゃん」


おそ松くんと同居を始めた。でも、相変わらずニートのままなので家賃も食費も光熱費もその他全部私が払うことになっている。
競馬場とパチンコに近い所がいい、それから実家に近いのも。そんなわがままな彼の意見も(不本意ではあるが)尊重しつつ、私のお給料や仕事場までのこと、治安や立地などを考えて借りたアパートがここだった。築は二十年を超えていて、トタン板の屋根はさびきっているし、階段だってぎしぎしと音を立てる。強い風が吹くとすぐに壊れてしまいそうだ。一言でいうと、ボロい。お風呂とトイレはあるものの、ユニットだし狭い。部屋も二人で住むには狭かった。
でも、今もっとも困っているのはそんなことじゃなくてこの猛暑に耐える術をなに一つ持っていないことだ。今までコツコツ貯めてきたなけなしのお金も、一攫千金を狙ったおそ松くんに全部使われて残っていない。

外ではシュワシュワと蝉がなっていて煩い。それはまるでこの夏の暑さを更に際立たせるもののように思えた。煩いから、と言って窓を閉めてしまえば、ココには扇風機もありはしないのだから、暑さで死んでしまうだろう。濡れたタオルをおでこに乗せたり、下着に近いような服装をしたり、もらった団扇でぱたぱたと仰いでこの時期を過ごすしかない。
寒い方が断然によかった。暖をとるのに適したものはなかったけど、二人で一緒の布団に入って身体を擦り寄せて温める行為は嫌いじゃない。
おそ松くんから匂う、同じシャンプーの香りとか、洗剤に混じるタバコの匂いが、たまらなく愛おしくて仕方がなかった。でも、そんなこと言えば調子に乗るから言えない。それに、夏は近いと暑苦しくてやってられない。

「ねぇ〜なまえちゃん」
「んー?」
「あついね〜」
「うん」
「あ!そうだ」

特にすることもない、休日のお昼過ぎ。太陽が一番照っていて、迂闊に外を歩けば火傷してしまいそうなので、こうやってだらだらと寝そべりながら二人で時間が過ぎるのを待つ。
隣で、半裸でジーパン姿のおそ松くんが、起き上がって私を見つめた。

「冷房買えない?」
「買えない」
「そっか〜、あついね、なまえちゃん」
「うん、あつい」
「ね、もっと脱がなくていいの?」
「…さすがに。誰か来たらすぐに出られないのは」
「居留守使えばいいでしょ」

ね?、そう言って、こんなにも熱いのに距離を詰めてから嬉しそうに笑った。
暑苦しいよ、そう言って距離をとろうと思えば、そのまま覆いかぶさられて、ちゅ、と額にキスを落とされる。
急にそんなことをされると、さすがにびっくりしてしまう。驚いた表情のまま彼の方を見れば、嬉しそうに、それでいて、ほんのちょっぴり悪いことを考えているような笑みも見て取れて、これから発言されることが軽く予想された。

「ねぇ、エッチしよ!そんで、汗かけばいいって!」
「やだよ、そんな気分じゃない」
「え〜、俺そんな気分」
「へぇ」
「ねぇ!お願い」

なまえちゃん〜、と甘えるような声を出して再びキスが落された。
むかつく、私がそういうの弱いの知っててそんなことするなんて。に、と笑ってから鼻を擦るその得意げな表情が少し憎たらしくて、もう一度キスをしようと近づけられた頬を指でつまんだ。

「パチ屋行けばいいじゃん。あそこ涼しいし」
「もうお金ないんだもん」
「……」
「あ、じゃあさ一緒にお風呂入ろ!涼しくなるし、エッチもできるし一石二鳥じゃね?」

さっさとやろうぜ〜、そう言ってからおそ松くんはタンスからタオルをとってきて、私の腕を引いた。
日頃は絶対にこんなにてきぱき動かないのに。自分のしたいこと(ギャンブル、飲み、セックス)の時だけはあり得ないほどに能動的に動く。本当にクズだ。
面倒くさいと抵抗してダダをこねるおそ松くんの相手をするのも面倒だし、セックスをするのも面倒だ。仕方なく、引かれた腕につられて脱衣所に向かう。鼻歌を歌いながらおそ松くんは私のキャミソールに手をかけた。

「じ、自分で脱ぐから……」
「照れてんの?」

こんなの初めてじゃないんだから、照れることないじゃん。又、にっと笑ってからキスを落とした。ちゅ、ちゅっと何度も触れるだけのキスをしてからぺろり、と唇を舐められる。あ、これはこのままセックスしちゃう流れだなって思いながら口をうっすらと開けて彼の舌を受け入れる。
暑くて、暑くて、熔けてしまいそうだ。