ま~~たマフィアパロ  おそ松≠マフィアおそ松 やりたい放題


欲しいと思えば欲しいわけで、一度自覚してしまったらそれを止めることは簡単なことじゃない。だからこそ、周りを滅茶苦茶にしてまでもそれを手に入れるわけで、でもいざ本当に手に入れていても、それが本当は誰かのモノで、未だその持ち主の事が忘れられないだなんてことになればそれはそれで腹が立つわけだ。
全部全部欲しい。嫌々と泣き喚きながら、相手の意志に反して奪い取ったその身体だけじゃなくて、気持ちも全部欲しい。俺の全てがなまえちゃんであると同じようにして、なまえちゃんも俺の全てであってほしいのだ。決して難しい話ではないと思う。否、難しい話じゃない。俺がなまえちゃんを好きになるのは全く難しいことじゃなかった。だったら、なまえちゃんが俺のことを好きになるのだって難しいことじゃない、はず。
俺と同じ名前の、でも俺じゃない誰かを呼ぶ、その愛らしくて憎らしい口に銃口を突き付けて、苦しそうな表情に少しだけ欲情しながらぐっと奥まで押し込んだ。おえ、とえづいて涙を浮かべるなまえちゃんを見ると、服従しているという快感と、それから屈服してくれない焦燥が半々。ぐちゃぐちゃのどろどろになって熔けていく。

「あのさぁ、なまえちゃんここに来て暫くだから分かるでしょ。俺が、一般人じゃないことくらい」
「……んぐっ」
「俺、あいつと違ってなんでも持ってるよ。お金も、地位…はちょっとアレだけど、なまえちゃんが望むことなら何でもしてあげる。ね、だからさ」
「んんっ、ん」
「……、いいの?なまえちゃんがあんまり可愛くないことばっかりしてると、大好きな彼奴も殺しちゃうかもね」

本当は今すぐにでも殺してやりたいけども。
でも、殺せばどうにかなるってもんでもないから、これがまた面倒なのだ。寧ろ、殺してしまえば、逆に彼奴との思い出はなまえちゃんにとって一生のものとなるわけで、そんな美化されていく思い出に俺が新たに事を重ねようと勝てない。きっとそれは時間が経つほどに綺麗に補修されていく。
それが逆効果だし、マズイ。しかし、なまえちゃんは欲しい。何をどうしたって、欲しい。恐ろしいほどにすべてが似ているのに、なまえちゃんが見せてくれる表情も気持ちも全く別のモノだった。
殺されちゃあマズイよねぇ、と俺は口に突っ込んでいた銃を取り出してからなまえちゃんの手に無理矢理握らせる。
随分と衰弱しているみたいだ。無理もないか、無理矢理こちら側に引きずり込んで、ずっとずっとここに囲っていたのだから。彼女に、物事を正常に判断させることも、体力を使う動作も、もう何も出来ないのかもしれない。あぁでも、俺は傍にいてくれればいいから。
嫌いな奴ともセックスでも、快感を拾えるようになるもんだから、なおさら可哀想だった。でも、その快感が俺とアイツを重ねて無理に投影させているのか、そういう才能があるのかは、俺にはよくわからない。
椅子に座っているなまえちゃんの、銃を持っている方の手をこめかみの方へを移動させる。

「でも、俺なまえちゃんのこと好きだから選択肢を用意してあげる」
「せんたくし」
「そう、選択肢。それで、アイツをなまえちゃんが殺すか、ちゃんとなまえちゃんの口から『おそ松くんのことが好きじゃなくなったから別れよう』って切り出すか」
「……」
「後者を選ぶなら、なまえちゃんに久しぶりに外出許可もだすよ。それに彼奴の死なずに済む」
「で、も」
「あぁ、でも殺してくれても構わないよ。難しいってなら俺が直々に彼奴をぼこぼこにして縛って、なまえちゃんが引き金を引くだけでいいようにするけど」

選択肢なんて、あってないようなもんだ。最愛の人を殺すなんて、よほど歪んだ愛情がない限り出来ないだろう。もう、なまえちゃんに残されたことなんて、別れを切り出してこちら側におちるしかないのだ。


パチンコも駄目だし、競馬も駄目。借りようと前から考えていたAVも誰かに借りられていた。あぁ、ついていないなぁ、と舌打ちをして近くにあった小石を蹴りあげた。
外はすっかり暗くなっている。

「おそ松くん」

ちっ、ともう一度舌打ちをして口先をとがらせていれば、後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。

「あれ、なまえじゃん……」
「…久しぶり」
「どこ行ってたの、ねぇ、すごい心配したんだけど」

ここ数週間、めっきり姿を見せなかったなまえの姿がそこにはあった。
ちょっと痩せたような気がする、心配したんだけど、ともう一度拗ねるような口調になったけどそう言って触れようと手を伸ばせば、ぱちんと手を払われた。

「いって、何すんだよ」
「……おそ松くん、別れよ」
「は…?」

別れるって、何が。言っている意味が分からない。負けまくったこともあって、イライラが募る。お前何ってんだよ、と荒々しい口調で言ってこっちに寄せれば、なまえちゃんは顔を背けた。

「おそ松くん、デートの約束してもいっつもすっぽかすし、デート代は出さないし、えっちばっかりしたがるし…ニートだし……構ってばっかで……う、っとおしいし……」
「なに、急に」
「も、もう!おそ松くんには愛想尽かしたの!これ以上は関わりたくない!」
「はぁ?お前がそれでもいいって言ったから付き合ったんだろ!」
「友達にも紹介できないような、彼氏…嫌だ」
「なんなんだよ、こっちは心配してたのに…そんなことかよ」

混乱して、悲しいのか腹が立っているのか分からない。
でも、この物の言い方からすれば、たぶん腹が立ってるんだろう。
確かに、デートよりも新台でたらそっちを優先するし、基本負けてばっかだからデート代も出せない。セックスしたいと思うのは当然だからノーコメントで、構ってほしいのは仕方がないことだろ。好きなんだもん、構ってほしいと思うのは当然のことじゃないのか。
それに、そんなこといつも「大丈夫だよ」って笑って何も言わなかったじゃないか。何をいまさら、嫌なんだったら初めからちゃんとそう言ってくれればいいのに。

「もう二度とかかわらないで…私は、おそ松くんのこと……」
「ん〜だよ!お前のほうから、好きっていうから付き合ったのに!」
「……大嫌い」
「は」

何かしただろうか、前会った時はちょっと照れながら、俺のこと好きっていってくれたのに。何か気に障るようなことしただろうか、行動は今一だったけどなまえを大切にしてきたつもりだ。大切にしてきたつもりなのに。

「さようなら」
「ちょっと、おい!」

あんなにやせていただろうか、心なしか足つきもおぼつかないような気がする。手を伸ばしても、届かなくて、なまえは真っ暗な闇に溶け込むようにして目の前からいなくなった。
追いかけてみたものの、すでにどこにもいなかった。


「う〜ん、最後のほうちょっと今一だったけど、まぁいっか」
「……」
「おかえり、なまえちゃん」

俯いたままこっちを向いてくれないなまえちゃんに、ふぅと軽く溜息をついて抱き寄せる。
初めてこうやって抱きしめてあげたときよりも、一回りほど小さくなったようにも思う。う〜ん、女の子は抱きごこちもポイントだからなぁ。こっちに来てからあまり食事もとっていないようだし……困ったなぁ。

「あんな理不尽なものの言い方されたら、そりゃあ『おそ松くん』も怒るんじゃない?なまえちゃんのこと、嫌いになるだろうね」
「……うぅ、う」
「あ〜、もう泣かないの」

よしよし、と軽く頭を撫でてあげると、ぴくりと肩が揺れた。
そりゃあ、嫌われても仕方がないだろうな。マフィアとか急に名乗られて、日常から切り離されたような無機質な場所で、接触を許されるは俺だけだなんて。それで最終的には、カレシのおそ松と別れてこいだなんて、好き勝手もいいかげんにしろって感じだ。

「さ、これでも心置きなく最愛のおそ松くんに嫌われたわけだし、俺のこと見てくれるよね」
「……」
「ね、なまえちゃん。俺の名前呼んでよ、おそまつ、って」
「……、」
「あぁ、拗ねちゃって」

帰ろっか、俺は手を腰にまわしてから、真っ黒な車を指さした。
もう、なまえちゃんに帰る場所なんてないのだ。あんなわけの分からないこと言われた『おそ松くん』も可愛そうだし、マフィアなんかに好かれたなまえちゃんも可愛そう。で、そんな立場だからこそ、力でねじふせて、それでも気持ちを受け取ってもらえない俺も可愛そう。
でも、もうなまえちゃんに帰る場所なんてない。手放すつもりもないし、手放すこともできないだろう。
可愛らしい恋愛をはぐくんできた、なまえちゃんたちの純愛を踏みつぶすような結果になったことは残念でならないと思う。な〜んて言っておけば少しは俺に対しては言い感情をもってくれるようになるだろうか。
なまえちゃんと呼んでから、キスを落とす。それから、細い腰を抱いて俺は彼女を車に乗るようにエスコートした。