15話Aパート風味 セクハラ モラハラ


「これ、期限いつまでって言ったっけ」
「きょ、今日までと聞きました」
「僕は昨日までって言ったはずなんだけど」
「ぁ、え…でも」

でも、と続ける彼女を睨みつけてから、一生懸命に徹夜までして作ったであろう資料を近くにあった屑籠に投げるようにして入れる。
それを見た彼女は、ぎゅっと唇を噛みしめて泣きそうになるのをこらえているようだった。でも、まぁ、ほら。期限は昨日ってことになっているし、過ぎてしまったものはもう、ゴミでしかないからいらないよね。びりびりに破って彼女の目の前で捨ててやるものありかなぁ、なんて捨てた後に思ったり。
彼女はそんな僕の行動を見てから、小さく「すみません」と謝ってから頭を下げた。綺麗な髪の毛が、肩からするりと落ちる。

「謝ってすむことじゃないから。そもそも、こういうことするの何回目なの」
「……っ、」
「仕事、やる気ないならやめたほうがいいんじゃない?」
「すみません…」

いつまでも大学生気分じゃ困るんだけど、そう言ってから僕は彼女の頭を軽く叩いた。
全く可哀想な人だ。
僕は確かに期限を今日までと言った。膨大な資料をまとめるように、と二日や三日じゃ到底できないような内容を無理に押し付けて、彼女を困らせた。他にもわんさか仕事があるというのに、眠ったり食べたりする時間までをも削って、言われたことをしただろうに、こんなことを言われて、目の前で屑籠に捨てられるなんて溜まったもんじゃないだろう。
こんなクソパワハラ上司、早く訴えてクビにさせてやればいいのに。僕ならそうする。

「お前に、この仕事は向いてないんじゃない」
「……」
「それと、そのスカートの丈、短すぎると思うけど」

全く短くはないけど、僕は彼女の言動に何かしら難癖をつけるから、彼女がどれだけ完璧に僕の言ったことをこなしてきても、僕は懲りることなく難癖をつける。
可哀想だ。
上司と部下という関係だけで、こんなにもおかしなことがまかり通ってしまう。でもまぁ、若い彼女にはいい経験になるんじゃないだろうか。世の中、正しいことが通るわけじゃないから。
僕は、彼女のスカートの裾を掴んでから、捲ろうと上にまくりあげる。

「や、やめてください……」
「こんなところで色気づいてる暇があったら、人並みに仕事ができるようになったほうがいいと思うけど」
「ご、ごめんなさい……お昼、にどこかで代わりのものを買ってくるので…やめてください……」
「は?悠長に服なんか買ってる暇ないから。お前仕事溜まってんだろ」

出来るわけないだろうに、すっごく可哀想だ。
一体どんなことをすれば、根を上げて誰かに助けを求めるのだろうか。あぁ、でももしかしたらもうすでに誰かに相談しているかもしれない。でも、仕事が出来ないお前が悪い、と突き放されているのかも。はは、やっぱり可哀想だ。

「仕事、やめてもいいけどさ…お前が残した仕事は誰がしりぬぐいするか考えてからにしてね」
「……」

口ではそういう僕だけど、彼女をやめさせる気は全くない。

「もう、お前さぁ」
「よっす、チョロ松〜〜って、あれ。なまえちゃん、叉怒られてるの」

ぱたん、と開いた扉からおそ松兄さんが入ってきた。おそ松兄さんは、彼女を見るや否や、少しだけ口角をあげてから、彼女に近づいて、肩を組んだ。

「今日は何したの?」
「……書類の期限を、間違えました」
「…あぁ、あのまとめるやつ?」
「そうです」
「あっちゃ〜、あれ大切なやつなのにね!どうしよっか」
「……」

あれはやばいよ〜、と相変わらず呑気な口調で言うあの人の手は、するりと肩から抜けて、彼女の洋服の中を這って行った。

「前もこんなことして迷惑かけたよね。どうやって解決したんだっけ」
「……ぅ」
「なまえちゃんだけじゃ、どうにもならない時はどうするんだっけ」
「…ご、ごめんなさい」
「大丈夫!この後の、なまえちゃんのやり方次第で十分に間にあうよ」

ごそごそ、と彼女の服が動いているのが見えた。
パワハラする僕も大概だけど、こうも堂々とセクハラをするこのクソ長男もいかがなものなのだろう。
やっぱり彼女に非はない。仕事が出来ないのは、彼女の能力に問題があるわけじゃなくて、周りの環境が十分に整っていないせいだ、本当はとても仕事ができる人なのだろうから、こんなところやめて、もっといいところにけばいいのに。僕たちに付き合うだけ無駄なことだ。真面目なのか馬鹿なのか、何なのか全くわからないけど、とりあえず彼女は仕事を辞めない。
早くやめておけば、こうやってミスをさせられたことに加えて、酷いこともされずに済んだのに。一度それを許してしまえば、もう二度と逃げることは出来ないだろう。

「一回につき、仕事一つ。俺らがどうにかしてあげる」
「……」
「そうそう、いい子じゃん。さすが、なまえちゃん」

やわやわと胸を揉むクソ長男の手を払いのけようとしていた手をゆっくりとおろしてから、彼女は小さく頷いた。

「しょうがないから、チョロシコスキーも混ぜてあげる」
「チョロシコスキー言うな」
「よかったねなまえちゃん、チョロ松もしたいって」

意外と泣かない、らしい。
いや、もうあの表情は泣いているも同然か。そんなこと分かってはいるくせに、おそ松兄さんは知らんふりをして彼女を近くのソファに押し倒し、ブラウスをせっせと脱がし始める。
僕はそれをちらりと見てから、ネクタイを緩めた。
誤解がないように言っておくが、もちろん厳しくしたり、理不尽なことをするのは彼女のこれからのことを思ってからであり、愛情は当然ある。