保険医  これの続き きもちわるい

面白いものを見てしまった。
なんだこいつらって感じ、こんなこと本当にあるのか、と僕はそんなことをぼんやりと考えながら、その光景を見ていた。
テレビとか、漫画とかそういうので見たことはあるんだけども、まさか本当にこんなに近くで起きるとは思っていなかったし、何よりもあの二人がそんな仲だとは全く思わなかった。
松野が去っていくのを見つめる彼女に、ゆっくりと物音を立てずに背後に近づいて、それから、とんとんと軽く肩を叩いた。そうすれば、案の定、彼女の大きく肩を跳ね、小さく悲鳴をあげてこちらに振り返った。

「ま、松野先生……」
「……」
「びっくりしました。…何か御用ですか?こんなところに来るなんて珍しいですね」
「……」
「……?」
「松野と付き合ってるんですね」

そう言えば、彼女は目を大きく見開いて僕を見て、顔色がみるみる悪くなっていく。僕は彼女の細い手首を掴んでから、近くの空き教室に入る。それから鍵をかけて、彼女を壁に押し付けた。

「びっくりしました。まさか、先生と生徒が付き合ってるだなんて。そんなことって本当にあるんですね」
「……このことは、内緒にしてもらえませんか……」
「……」
「……」
「セックスは何回したんですか?」
「セ…?」

セックス、何度か復唱してから僕は彼女の下腹部をとんとんと二回、人差し指で叩いた。

「まさか、学校の先生なのにセックス知らないとかそんなんじゃないよね?」
「…そ、それは、違います…」
「で、何回?」
「そんなの……」
「黙っててあげるから」

今にも泣きそうな彼女の表情が可愛くて仕方がなかった。何かおぞましいものをみるような目で僕を見る彼女の両手首を片手で拘束してから、もう片方の手ですりすりと頬を撫でてあげる。う、と小さくうめき声をあげてから彼女は嫌だと言わんばかりに、顔を背けた。

「何回なの?やってないわけないでしょ」
「……」
「なまえ」

彼奴が、彼女のことを名前で呼んでいたから、僕もなんとなくそんな風に呼んでみる。
ねぇ、と少しだけ苛立った声で呼んでも、顔を背けたまま何も言わない。なんでそんなに隠すのだろうか、別に回数くらい教えてくれたっていいじゃないか。それか、そもそもしていないのかもしれない。アイツもアイツでロマンチックだし、僕が考えているよりもプラトニックなのかも。なんて一瞬そんなことを思ったけれども、でも、やりたい盛りの高校生だし、そんなわけないだろう。

「黙っててあげるからさぁ」

頬に寄せてた手で顎を掴んで無理矢理こちらを向かせる。今にも泣きそうな彼女の瞳には僕が確かに写っていた。
掴んでいる手の親指で、ゆっくりと唇をなぞれば、ぬるりとした感触がする。

「…さ、さんかい」
「へぇ」

三回、と彼女は小さな声でそう言った。外では野球部のランニングの掛け声と吹奏楽の練習の音が聞こえる。
堪らないな、と思った。三回も、と言えばいいのか、三回しか、と言えばいいのか分からないけど、でも確かに彼女は三回、男に抱かれている。そう考えると酷く興奮する自分がいた。

「今日泊まりだったから、今日も合わせると四回か」
「……」

しないことは無いだろう、何度も言うけど相手はやりたい盛りの高校生だ。我慢なんて出来るはずがない。

「体位は?」
「……もう、いいですよね」
「……体位は?」

いつもよりも何倍か低い声で、そう言えば、とうとう彼女は泣き出してしまった。
とっても可哀想だ、でもとってもかわいい。唇をなぞった指で零れる涙を拭えば、彼女は泣かないようにと、一生懸命に唇をかんでいた。
でも、涙って止まれと思うほどに止まらない。だから、彼女の涙もなかなかに止まらなかった。
松野が羨ましい、こんなに可愛い人を彼女に出来ただなんて。生徒という圧倒的に不利な立場から恋人に上り詰めることが出来たのだったら、僕も頑張っていれば恋人というポディションについたのだろうか。
でも、僕みたいな卑屈で根暗でどうしようもない変態に、こんな可愛らしい人は釣り合わない。そうは思うけれども、なかなかあきらめもつかない。
好きになるってのはめんどくさいんだなぁと思った。

「あててあげる。三回くらいなら正常位でしょ。まぁ、あともう一個あげるなら、バックくらいじゃない?」
「……」
「ねぇ、高校生に気持ちよくさせられる気分ってどうなの?……てか、生徒に手を出すなんて本当にド変態で淫乱。欲求不満の男好きって感じ」
「……松野先生…もう、やめてください」
「いいの?僕、ぽろっと喋っちゃうかもしれないよ」
「うぅ、それは…嫌です」

だよね。そう言ってから、彼女の瞳に唇を寄せる。好きな女の子の涙なら甘いのかも、と思ったけど現実はそんなにメルヘンじゃなかった。

「…今度、僕の前でセックスしてくれない?そうしたら、誰にも言わないであげる」
「…ぁ、え?」
「言ってる意味分からない?なまえと、松野がセックスしてるの僕に見せてって言ってるの」
「そ、んなの…出来ない」
「じゃあ、今から僕の相手をしてくれるのでもいいよ」

そう言って、手首を掴んでいた手で胸を無遠慮に掴んだ。彼女の表情がさらに歪められる。
高校生にどんな風に乱されているのだろうか、ただならない嫉妬という感情を覚えると同時に、そこには確かに興奮という感情も存在した。
本当に、どうしようもない。