兄弟から痛いと不評の愛をしたためたラブレターも、お小遣いで買う綺麗な薔薇も、歯が浮きそうになるね…と何故か引き気味に言われるその発言も、それはただ俺がしたいからしているというよりかは、俺が自分なりに一生懸命考えて考えて考えて、考えた結果、これが一番、自分の気持ちがなまえにストレートで素直に伝わると思ったからしていることであって周りを傷つけようだなんてそんな風に考えて行動したことは一度もない。
なんたって俺の夢はラブ&ピースだから。世界平和を望む俺がそんなことをするわけがないだろう。まぁ、でも、それでも人を傷つけてしまうわけだが、仕方がない……俺はなんたってギルトガイなのだから。

そんなこんなで、今日も今日とて俺は彼女のなまえの家へと向かう。久しぶりにゆっくりできるということで、俺も色々と準備を念入りにしたわけであるけれども、彼女の方は疲れているのかもしれない。
まぁ、でも、頑張ってもらおう。俺の足取りは軽いまま、片手にいつものバラをもってインターホンを押した。
扉の前で、少しだけのぞき窓の方を意識しながら、キリッとした表情とポーズをキメて待っていると、ガチャリと音がなって、ひょっこりとなまえが顔を出した。

「なまえ」
「……あ〜叉……それ」
「?」
「まぁいいや、中に入って」
「お邪魔するぜ」

俺はなまえと会えてとてもうれしいのに、彼女は俺を見ると少しだけ顔を歪めてから溜息をつくのだった。
やっぱり、俺が今日もこんなにナイスガイだからため息がでたのだろうか?そうであるのなら、すごく申し訳ない。でも、それが俺に与えられた罪だから……やはり、俺はギルトガイ!!!!


いい加減にしてほしい。
やめてほしいと注意したのはこれでかれこれ那由他回に達してしまいそうだ。好きだったはずの彼の顔を見るたびに、そんな否定の言葉を繰り返さないとならない私の気持ちもちょっぴり考えてほしい。
その一張羅と称した痛い服装も、毎日阿保みたいに送り付けてくるラブレターも薔薇の花束も、痛い発言も、そのキメ顔にキメポーズもいらないのだ。二人だけの時はまだしも、沢山人がいる町の中でもそんなことを繰り返すもんだから、恥ずかしさで爆発して死んでしまうかもしれない。
彼が色々考えて、そうしていることも理解はしているつもりなのだが、私はそんなこと望んでいない。いちいちかっこつけてまわりくどいことや、形だけ立派に取り繕ったものなんて必要なくて、寧ろ、素のままのカラ松の口から一言、「好きだよ」って言葉が聞けたのならばそれで十分なのだ。それは、どれだけの痛々しい愛の言葉を告げるよりもよっぽど価値があると思う。
何度も何度も、やめてくれるように注意しているのだが、今一理解していないのか聞いていないのか結果として出てこない。何をそんなにまで痛いことをする必要があるのだろうか。素の彼なら、彼が長年欲しがっているカラ松ガールズなんて馬鹿ほどにできるっていうのに。
近所の目をなるべく避けるために素早く彼を家の中にいれる。狭い玄関にはむせ返るような薔薇の香りが立ち込めていた。
けほ、と少しだけ咳き込んで私はそれに視線をむけると、カラ松はそんな私を見てから、ぱあっと嬉しそうな表情を見せた。

「とても綺麗だろう?なまえに似合うと思って買ったんだ」
「……うん」

その気持ちは凄く嬉しいのだが、会う度にそんなものを渡してくるもんだから私の家は忽ち薔薇だらけになってしまった。嬉しくないわけではないのだが、ここまでくると処分に困る。あと、そのお金はどこからでているのだろうか。きっとお小遣いか何かで、とりあえず、自分で稼いだお金じゃないのだろうから、もう少しだけ有意義な使い方をしてほしい。
その痛い言動をやめて、ただ一言好きと言ってくれればいい。それだけでいい、そんなに難しいことじゃないと思う。私はそれ以上何も望まない。

「あのね、カラ松」
「ん?」
「あの…前から言ってると思うんだけど……」
「あぁ」
「その、花束…いらない、かな」
「いらない?」

ぱちぱちと瞬きをしてから、カラ松は私と花束を見比べて、ゆっくりと私を抱きよせた。薔薇の匂いは一層濃いくなっていく。

「前から言ってると思うんだけど……そういうの、なくても大丈夫だよ。あんまり、そういうことされると、困るから……いつまでも、そんなんだと、別れたくなる」
「じゃあ、別れよう」
「……あ、え?」

交際をやめようと言った、と彼は言って私を見た。
誰もそんなこと言っていない。ただ痛いその原動をやめてくれとそう言ったのだ。なにをどう考えればそんな発想にいたるのだろうか。
何故か大きく溜息をつかれて、手に握っていた花束を彼は近くにあった屑籠に放り投げた。
なるべく彼を傷つけないように、と言葉を選んだわけではあるが、何がいけなかったのだろうか。考えあぐねて困り果てている私に、カラ松は叉大きく溜息をついた。

「だって別れたいんだろう?」
「そんなこと言ってないよ」
「でもさっき、別れたくなるって。あと、薔薇もいらないって」
「いや、あれは、そんな意味じゃなくて…」

何故か次の言葉が上手に出なかった。
口ごもっている私を見るその瞳はなんとなく不快なものをみるようなモノのような気もする。

「答えられないなら、そういうことなんじゃないか?」
「そうじゃないってば!」
「何が違うんだ、自分の発言には責任を持つべきだと思うぞ」
「……」

ここまで言われると腹が立ってきた。お前も自分の行動に責任を持てよ!って話だ。
あぁ、もうこうなれば交際破棄だ!別れてやる!!!明日、「なまえ〜別れるなんて、言わないで〜!」なんて泣きながら言ったって許してやらない。その痛い言動全部やめるまで絶対に許してやらない!

「もういいよ!そうだね、別れよう。ばいばい、クソ野郎!」
「……あ、最後に一つ頼みがあるんだ」

よくこの状況で頼み事なんて出来るな、なんて考えながら彼を睨んで「何?」とぶっきらぼうに返した。

「とりあえず、別れる前に一回やらせてくれないか?」

私は、絶句した。なんだ、このサイコパス。
何も言わない私のそれを彼は肯定ととらえたのか、何食わぬ顔で私の洋服の中に手を滑り込ませるのだった。