お下品 ちょっぴりえっち



今日もなまえは帰ってくるのが遅い。
最近仕事が忙しい、とは言っていたけれども、俺はそれがどういう意味なのかはよく分かっていない。だって、なまえが俺のことを養ってくれるって言うから、俺がわざわざ不毛な労働をする必要はなくなった。でもまぁ、こうやってなまえは帰りが遅かったり、へろへろになりながら、毎朝出ていく様子をみていると、さすがにこのままではいけないのかなとも思うわけで家事を試みたりするわけだけど、なんせ生きていてやってもらうのが当然だった俺には、一日や二日で習得できるようなものではなかった。むしろ、彼女の仕事を増やすことになってしまう。その時、なまえの「私がやるからいいよ」と言ったその発言と、疲れ切った彼女の表情がいまだにい忘れられなかったりする。
どうにかこうにか、彼女の負担を減らしてあげたいんだけどなぁ……、そんなことを考えながら、雑誌の目ぼしいところに付箋を付けていれば、ガチャリと音がなってなまえが帰って来るのがわかった。
俺はそそくさと、それらを片付けて玄関へと向かう。

「ふっ、戦士の帰還か」
「ただいま」
「おかえり、ハニー!」

ぱたぱたと駆け寄って、靴を脱ぐ彼女を優しく抱きしめる。いつも帰りがおそいことは遅いのだが、今日はいつもよりも更に遅かった。おまけにどこかに寄って何かを買ってきたようだ。なんだそれ、と不思議に思って見つめていると、俺の視線に気づいた彼女は、一息ついてから「カラ松くんにプレゼントだよ」と言った。
丁度いい、俺も渡そうと思っていたものがあったのだ!

「その前にシャワー浴びさせて」
「もちろんだぞ」
「ん、カラ松くんはもう済ませたの?」
「あぁ」
「そっか」

なまえはふらふらと少しおぼつかない足取りで、タンスから洋服や服を取り出して脱衣所へと向かって行った。


仕事が忙しいことには忙しいのだが、別にそんなことはどうだってないのだ。
大変と言えばそうだけど、こんなの前々からあったことだし、これからも仕事は増えていくと思う。カラ松くんは、家事が出来ないことを気にしているようだけど、それだって構わない。今まで仕事も家事も一人でやってきたから、要領だって掴んでいる。彼は大きく何かを勘違いしているのだ。そうじゃない、私が疲れているのは仕事のせいだけじゃない、というより、カラ松くん自身にあるのだ。

シャワーを浴びて、寝巻に着替えて、髪の毛を乾かしてから、彼の待つダイニングにむかう。お昼前に起きて、カラ松ガールを捕まえに外をうろうろして、私の帰りを待つ生活を続けている彼はまだまだ体力が有り余っているようで、真剣な表情で雑誌を読みながら付箋を付けていた。
私は、今日買ってきたそれを片手に、彼の名前を呼ぶ。ソファに座れば、彼の嬉しそうに横に座ってから、私の肩を抱き寄せた。

「ね、これ」
「ん?俺にプレゼントか……ふっ、いいだろう。いただこう」
「ぜひ、使って」
「……なんだ、これ」

ごそごそと袋から取り出して、綺麗に包装されたそれを丁寧に剥ぎ取ってそれをみた彼は怪訝そうな顔でそれと、こちらを見つめた。

「あのね、カラ松くん」
「ん」
「私が毎日疲れてるのは、お仕事が大変なこともあるんだけどね」
「うん」
「カラ松くんのことが大きかったりするの……」
「……俺がなまえを傷つけているのか……」

やはり俺は、周りに人を傷つけてしまうギルトガイ!、とかなんとか。どこからか取り出してきサングラスをかけてぼやく。
眠気に比例して、瞼も重たくなる。促される欠伸を噛み殺した。眠ってしまう前に、彼にどうしてなのかを説明しないとならない。じゃないと私はいつまでたっても寝不足のままで、くたくたのまま家を出て、遅刻ギリギリで会社に出勤し、会議でうたたねを繰り返し、昼休み返上で仮眠をとらないといけなくなる。
聞いてねカラ松くん、そう言って私は、太腿に置かれていた手に同じようにして手のひらを重ねる。

「カラ松くん、ここ最近……というか、同居始めてから毎日、えっちしたいって言うでしょ」
「ふっ、聖母に触れたいと思うのは当然のこと…!」
「毎日一回だけなら付き合ってあげられるんだけど、カラ松くん前戯も長いし、一回じゃ終わんないから、眠れないの」
「……ふむ」
「週末なら、いつでもどんなプレイでも付き合うから、お願い。平日はそれを使って」
「俺が、なまえとセックスする回数を減らせということか……」

彼が少しだけ我慢してくれればいい。本当にそれだけでいい。ちょっと我慢してくれれば、後で彼の気が済むまで付き合ってあげるから、だからどうか平日だけは我慢してほしい。
う〜ん、と渋りながら、男性用生理用品、赤いパッケージが特徴のそれを見つめる彼。
貸してね、そう言って彼の手からそれをとってぺりぺりとパッケージフィルムを外して、底部のキャップを外した。それから、上部にある銀色のシールを外して、はい。と彼に返す。

「あとは、楽しむだけだから」
「……ほぉ」
「…えっと、ここ。押せば吸い付く?んだって。それ使ってね」

それじゃあ私は寝るね、そう言って肩から彼の腕をひきはがして、ベッドへと向かった。
布団にもぐりこんで、それからゆっくりと瞳を閉じる。あぁ、やっとゆっくり眠ることができる。

「……なまえ、なまえ」
「…………なに?」
「……やっぱり、違うと思うんだ」

何のこと、と聞き返そうとする前に彼が布団にもぐりこんできた。それから私を抱きしめる。あ、これはもしかして。

「なまえからのプレゼントは嬉しい。俺からも、実はプレゼントがあってだな」

そう言った彼の口角は妙に弧を描いている。
彼の手に取りだされていたのはピンク色のアレ。スイッチが入れられて、ヴヴヴと無機質な機械音がなる。それを触れるか触れないか、のところで鎖骨をなぞられた。
ぞわり、と背中に何かが走っていく感覚がする。

「……ねぇ、私の話聞いてた?アレ使ってよ。私は眠い」
「一緒に気持ちよくなれないなら、意味がないだろう」
「そういう気持ちは充分に嬉しいけど、お願い。眠らせて」
「一回で終わらせるし、絶対に気持ちよくするからな」

気持ちよくないから、断ってるわけじゃないのに。あてられたそれを、振りはらって、布団を深く被れば、無理矢理に引きはがされて額にキスを落とされた。
ちゅ、ちゅ。と額に寄せられる唇は、瞳、頬、唇と場所を変えて押し付けられる。もう一度唇に触れてから、ぺろりと舐められて、薄くひらいた隙間から舌を入れられた。
腹部にまわされていた手も、するすると服の中に入ってくるくると腹部で円を描く。

「……ねぇ、人の話聞いてる?」
「…ん」
「……」

せっかく恥を忍んで買ったのに。好奇の目に晒されながらも買ったのに、それはきっと活用される日なんて来ないんだと思う。
そもそも使う気なんてないんだろうと、与えられる快楽に酔いしれながらそんなことを考える。薄暗いそこから見える彼の瞳は、熱に溶かされているようにも見えた。
こうなると止まらないから、明日はどこかに縛り付けて、触らせないようにしようか。それとも、そっけない態度をとって困らせてやろうか。とりあえず、とってもとっても困っていることを分かってほしい。さっきも、一回で終わらせるなんて言ったけど、そんなこと前も言っていなかったか。いつもそんなこと言って、自分の気のすむまでするくせに。
誰でもいいので、どうにかいい方法があれば教えてほしい。このままだと、どうにかなってしまいそうだ!