学ぱろ



窓からは、ひらひらと桜が舞うのが見える。窓から差し込む光も効果を一層表していて、それは嬉しさと悲しさの二つを連れてくる。あれほど騒がしくて仕方がなかった教室は、しんとしていて綺麗に机が並べられている。私の席は、前から三番目の廊下側から二番目。
アニメや漫画のように、一番後ろの窓際になったことはないし一番前のど真ん中もなかった。特別に目立つような生徒でもなかったはず。なんの特徴もなくて、なんにも抜きん出たものがない。聞こえがいいように言えば、何事もそこそこのバランス型、といえばいいだろうか。
自分の席にそっと触れてから溜息を吐いた。三年間、短かったのか長かったのかよくわからない。短いような気もするし、長い気もする。でも全て、遠い昔の事に感じてしまうのだ。
もう一度溜息をついてから自分の席の右斜め後ろを向いた。
あの席はたしか、そう思いだそうとしたとき誰もいない教室の扉がひらかれた。

「ふぃ〜、卒業証書忘れてた!っぶね〜…って、あ…みょうじさんじゃん」
「……松野くん」
「ん、こんなところで何してるの?」
「…特に」
「そっか」

俺はね、卒業証書忘れてて!弟達は持って帰ってきてるのに一人だけないのはなんだかな~と思って!にこにこと笑いながら自分の席の机の中をごそごそと探す。
それは、私の席からみて右斜め後ろの席だった。

違和感を感じながら松野君を眺める。六人のうちの誰だろうか、おそらくそこの席の松野君でないだろう。だって。

「あ!ねぇ、みょうじさんは進学するんだよね?」
「うん」
「家から出るの?」
「うん」
「そっか、みょうじさん賢かったもんね。いつも頑張ってたし」

誰だお前は、と言ってしまいたかった。でも、そんな言葉は喉もとで引っかかってこれ以上出てくることはない。当然、目の前の松野君にこの気持ちが届くこともない。私の知っている松野君じゃない。だって、松野君は私のこと嫌いだったはずだもん。
わたしだけにむける冷ややかな視線も、反応も、態度も全部全部私だけで、クラスのムードメーカーな松野くんは誰にだって優しいはずなのに、私だけにはとてつもなく冷たい、無関心な反応だった。

「ごめんね、みょうじさん」
「……ねぇ、松野くん」
「俺、ずっとみょうじさんのこと好きだったんだ。でもなんか上手に好きっていえなくて、たくさんみょうじさんを傷つけるようなことした。許してくれるとも思ってないけど、とりあえず気持ちだけ伝えておくね。卒業おめでとう」

じゃあね!そう言って松野君はそそくさと教室を後にする。
残された私は何を思えばいいのか、彼の今の発言を素直にとれるほど私も純粋で素直でない。
今更、そんなこと。どうせ、卒業とかいう少し大きな人生のイベントに妙に浮かれて思ってもないことを言ってしまったんじゃないだろうか。狡い、狡すぎる。
そんな告白聞きたくもなかった。そんなの自分の自己満足じゃないか!私にした対応をどこか負い目に感じていて、それを卒業というイベントと共になかったことにしてしまおうだなんて、そんな卑怯な考え方に決まってる。
私はそんなの大嫌いだ。松野くんなんか大嫌い。気持ちなんかしらなくてよかった。
私は松野くんの机を一蹴りしてから、教室を後にした。
何が卒業おめでとうだ、ばーーーーーーーーか!