マフィアぱろです


一週間くらいしたら、すぐに自由になるからね。初めてここに来たときに言われたことだった。約束する、とまで言われたのに、未だに守ってもらえていない。それどころか、それをなかったことにしようとしたのだ!
おまけに、私は無機質な部屋に閉じ込められていて、延々とすることのない日々を食い尽くしていく。いい加減そんな日々に飽き飽きした。

とある夜、偶然部屋の鍵が施錠されていなかったことが後押しして、私はここから逃げることにした。大きなお屋敷で部屋の配置なんて全く分からなかったけど、そんなことを考えたり調べたりするよりも、こんな退屈でとんでもないことを強要される日々に耐えきれなかった。
意外に上手くいくもので、なんとか外には出ることができた。後は庭を抜けて、この高い塀を越えれば、私は忽ち自由になれるのだ。長い間、あんな狭い箱に閉じ込められていたせいで筋力は恐ろしいほどに衰えていて、少し走っただけなのに全身で息をしないといけないほどだった。
よろめきながらもなんとかそこを抜けて、大きな門の前にたどり着いた。後はここを飛び越えればいい。模様が少し複雑だし、よじ登ることができるかもしれない。そうすれば、こんな場所からおさらばできる。そう考えた私は、特に周りを気にせずに登り始める。
何も考えずに出てきたから、靴なんて履いていない。鉄のひんやりとした冷たさは、鋭い痛みに変わっていく。震える四肢でなんとかよじ登っていけば、急に足首に生暖かいものが触れて視界がぐにゃりと歪んだ。
ふわりと風が吹いて、スカートが膨らむのが見えた。


特に深い意味も目的もないけど、外に出て散歩をしようという気分になった。本当は疲れているし、早く休息を取りたいという気分であるが、自然と足は外に向かった。
今日は満月らしいのだが、天気は曇りなのでどんよりとした明るさであまり視界がよくない。辺りはしんとしていて、空気は少し冷たかった。はぁ、と軽く溜息をついて自室に戻ろうとすれば、門の方で誰かがうろうろしているのが見えた。
侵入者かな。足音を殺してそれに近づく、それから、よくよく目を凝らしてみると、それは侵入者じゃなくてなまえちゃんであることに気づいた。
なんでこいつがこんなところにいるんだろう。答えなんて出ているけど、そんなことを考えながら彼女の細い足首を掴んでこちら側に引き寄せた。それは簡単にバランスを崩して、こちら側に倒れる。怪我をさせないように、痛い思いをさせないように優しく受け止めてから、抱きしめてあげる。
なまえちゃんは俺を見れば恐怖一色に染まった表情をしてから、微かに震えはじめた。

「女の子がそんなところ登っちゃ危ないだろ〜。ったく」
「離して、ください」
「なんで?俺、なまえちゃんのこと高いお金出して買ったんだよ」
「……私は、売られたことなんて」

あ、そうそう。
他の組織との取引の時に役に立つかな~と思って、ここらでちょっとばかし有名な組織のお偉いさんの娘さんをさらってきた。それがなまえちゃんで。初めは本当に取引目的でここに置いてたんだけど、そのやり取りが必要なくなったり、ここに置いておくうちに妙な感情が芽生えてきたからこのままここで囲うことにした。
相手には、組織の存続との引き換えといくらかの金を積んで、彼女を奪い取った。
何不自由ない生活をさせているつもりなのに、どうやら不満らしく、彼女はその度に脱走を重ねた。何度も何度も、それは無駄な行為なんだよって色々と手段を施して教え込んでいるのに、一向に学習をしない。
馬鹿な女は嫌い。
「どうしたら俺にしたがってくれる?」
「……」
「あ、俺のだよって印でもつければいいのか!」
「……離して」

身体を捩って逃げようとするから、更に抱きしめる力を強くした。細い体は、もう少し力を加えてしまえば、ぽきりと折れてしまいそうな程だ。長い髪の毛を片方に寄せて、首筋を露わにさせてから、そこを思いっきり吸い付く。しばらくしてから、唇を離すとそこには赤い跡がくっきりと残っていた。
そこを優しく撫でてから、抓ればなまえちゃんの口からは少しくぐもった声が出る。

「今、えっちな気分になった?」
「……」
「一個じゃわかんないだろうから、いっぱいつけてあげるね」

だから、お部屋に戻ろっか。
一旦身体を離してから、腰を抱きしめて逃げることができないようにしておく。彼女は、逃げられないことに気づいたのか悔しそうにぽろぽろと涙をこぼし始めた。
あ〜あ、俺らのエゴのせいで泣かされてかわいそうに。本当に可哀想で、可愛い。
溢れる涙を親指で拭ってあげる。本当に俺ってば優しい。

「おそ松」

背後で、少し低くかすれた声が俺の名前を呼んだ。なぁに、と少し間抜けた返事をして振り返るとそこにはカラ松が立っていた。
あれれ、こいつには仕事を頼んだはずだったんだけどな?、思っていたことが顔に出ているのか、俺を見るとカラ松は「仕事は、今片付けてきた」と短く返す。よくよく見てみれば、所々に返り血が付着していた。

「こんな時間に、ここでなにしてるんだ」
「あ〜うん。なまえちゃんが叉逃げようとしてたから」
「……」

いつもは割と穏やかなのに、今は余裕がないというか妙に荒々しい。カラ松は視線を俺から彼女にむけると、俺から引きはがして乱暴に投げ飛ばした。
もともとか弱くて体力のない彼女はそのまま、よろよろとよろめいて尻餅をつく。カラ松は何も言わずに彼女の腹部に跨って、レッグホルスターから銃を取り出して、それから何度か地面に向けて発砲した。

「何度も言っているはずだ、逃げるな、と」
「………」
「何度言えばわかる」
「……」

なまえは完全に脅えきっていて、ただただ泣くほかなかった。なかなか質問に対する答えを出さなかったことにイラついたのか、カラ松はそのまま彼女の口を指でこじあけてから、銃口を口に突っ込んだ。

「謝って許しを乞え」
「……っんぐ、」
「ほら、早くしないと撃つぞ」

ぐ、と奥の方につけば彼女の口からはだらしがなく唾液が零れた。それをべろり、と舐めとって、銃口を更に奥に突いていく。
さっきから妙に荒々しいのはどうしてか、なんて考えていたけれど、こいつさっきまで打ち合いしてたし興奮が覚めないんだろう。
なるほどな。と納得をしながら、これからどうするのかをただ、何も言わずに見ている。

「ほら、早くしろ」
「……っ、ん、ぐ……あっ、ふ」
「なまえ、ごめんなさい。は?」

なまえはいい子だから、それくらいできるよな?そう言って、彼女の頬を優しく撫でた。日頃が穏やかなせいもあってから、カラ松の今の言動に少し驚いている自分がいる。突き付けた銃で口内を蹂躙することに囁かな興奮を覚えているのは表情を見れば明らかなことだし、こいつがこうなってしまった以上俺にはどうすることもできないから、とりあえず本当に発砲しないように見守るしかない。

「ごめん、な、ひゃ……、んむっ」
「…次逃げれば、本当に撃つからな」
「……っん」

ごめんなさい、となまえちゃんがもう一度謝ったのを聞いてから口からそれを抜いてあげていた。なまえちゃんの顔は涙と唾液でぐちょぐちょになっていて、それを見て一層興奮したのか、カラ松は嬉しそうに顔を歪めた。

「なまえ戻るぞ」
「……」

ホルスターに銃をなおしてから、立ち上がり、もう力が出ないであろうなまえちゃんを抱きかかえた。

「おそ松も、戻ろう。今日は寒い」
「…おう」
「なまえは戻ったら躾直しだ」

カラ松は、抱きかかえられたなまえちゃんの瞳にキスを落とす。
可哀想になぁ、と他人事のように彼女のこれからのことを憐れんだ。