「松野くん!!」

放課後の教室。二人しかいないそこは、いやにだだっ広く感じる。
目の前の女の子は、誰だっけか。みたことはあるんだ、それに名前も聞いた。でも思いだせない。えーーっと、うーーん。あ、そうそう。みょうじなまえさんだ。可愛いって学年でも割と評判な、おそ松兄さんも可愛いとかおっぱいでかいとかいってたなぁ。そんなことを思いながら目の前でもじもじするみょうじさんを見た。
彼女の手には白色の便せんが一通。いや、そこまで馬鹿じゃないから分かるよ、これから彼女が思いを告げて、付き合って欲しいって言ってくるのは。
はい、と短く返事をして彼女を見つめれば頬を紅潮させた。

「どうかした?」
「……これ、もらって欲しくて……!!」
「ラブレター?」
「…………、うん」

ラブレターねぇ。
白くて綺麗な手が震えているのが見えた。それを受け取って封を切る。ラブレターは白い封筒に赤いハートマークのシールでこれでもかってほどにラブレターさを象徴している。
ぺり、とめくって手紙を見る。綺麗に並んでいる文字を適当に読み流していく。

「これを誰に?」
「……松野くんに」
「残念だが、松野は六人。どの松野?」
「……一松くんに」
「そう」

へぇ、松野一松くん宛かぁ。
えっと何……ふぅん、そう猫と戯れる松野くんの表情がとても優しそうで好きになった。と。

「こんなドクズでいいの?」
「クズって」
「あんたも書いてるだろう。…松野くんはあまり人と仲良くしていないって」
「あれは、そういう意味じゃないよ」

ミステリアスなだけ……、しりすぼみになりながら彼女は答えた。
ちらり、と彼女の方をみてそれから再び手紙に視線を戻す。これでもかってくらいに褒めてくれている。もったいないなぁ……、こんなに沢山褒めてもらっちゃって。

「で、どうしてほしいわけ?」
「……返事が欲しいの」
「言伝で?」
「……いつでもいい、なんなら今でも」
「あぁ、俺、に?」
「うん、松野一松くんに」

彼女は少し困ったように笑ってこちらをみた。
確かにみてくれは申し分のないほどに美しい、よく手入れされた長い髪は彼女の可憐な品格をよく表しているし、ニキビ一つない綺麗な肌にも触れたくなる。ぱっちりしている瞳には俺が見えた。
そう、俺が。
俺が口を開こうとしたとき、タイミングよく教室の扉がひらかれるのがわかった。くるり、とそちらに振り向くとオレと同じ顔をしたアイツが立っている。

「……カラ、松何してんの?」
「いいや、とくに何も」
「……でも」
「帰ろう。どこにほっつき歩いていたんだ」

俺はみょうじさんを見ることなく、鞄を手に取り教室を後にする。
一松に彼女の名前を聞けば、知らない。と短く帰ってきた。

「なんだ、一松も知らないのか」
「カラ松も?」
「ん、初めて」
「告白でもされてたの」
「……いいや、」

俺は右手に握られていたラブレターをびりびりに破って道中ばらまいて帰った。