冬は日が昇るのが遅く、そのくせして沈むのは早い。凍えるように寒いし人肌が恋しい。
私は冬が苦手だ。一人暮らしを初めてからだいぶ経つのだが、どうも一人というのに耐え難いらしい。ついこないだまで彼氏を切らしたことは無かった。
今まで愛しているから付き合っていた、というよりは寂しいのが嫌だから付き合っていた感じだったので、彼の何かが私にとって不都合をもたらしたり、なんだか嫌だなと思えばすぐにわかれてきた。
一週間ほど前まで付き合っていた彼氏は、性癖もなかなかに理解しがたくそして叉愛が重たかった。私は、寂しいときだけに会いたいのだ。
とか、まぁいいつつも不器用ながらに優しい彼の事はなんとなく気にはなっていた。


「ただいまー」

玄関の扉を開ければ、案の定真っ暗だった。電気を付けてコートを脱ぎ鞄を置く。
ひんやりとしたフローリングがなんとなく気分を空しくさせた。エアコンの電源を入れて、テレビをつける。今日は帰ってくる時間が少し遅くなってしまったから早く風呂に入って寝てしまおう。
風呂場に向かうと、すでに浴槽には湯が張られていた。……昨日栓を抜かないままだったかな、でも湯気が出ているし……?
不思議に思いながら台所へと向かう。冷蔵庫を開ければタッパには私の好物が沢山詰められて保存されていた。あぁ、そうか。たまに母親が来て掃除やらなんやらをして帰っていくんだった。今日来るなら一言言ってくれてもよかったのに。
刹那、嫌なことが頭によぎってしまったがそれは杞憂だったらしい。それにしても今日はつかれていたからラッキーだ!
タンスから洋服や下着を取り出して再び脱衣所へと向かう。

「…ん、今日洗濯物全部入れておいたんだけどな」

はらり、と一枚だけ下着が落ちていることに気づく。朝に全部洗濯機に入れて乾燥まで書けるようにはしていたんだけど……落としてたのかな。拾ってみれば、なんだか少し生暖かいように感じた。

「……おかしいな、コレ昨日洗濯したばっかのやつだ」

ぬるり、と指がぬめりと湿気を感じた。不思議に思って見てみると指先には半透明な液が付着している。洗剤?……でもなんかイカ臭い。
それから少し思考がフリーズしてしまう。これは、アレだ。男性器を持つ人のみした分泌ができない奴だ。私は女の子だし、あいにく彼氏もいない。
じゃあなんで下着にこんなのがついているんだ?父親か?父親はそんなことしないぞ。だらだらと冷汗が流れてくる。
そういえば今日キチンと施錠して職場に行ったのに、さっきはされていなかった。
誰が?何のために?

「あ、なまえ?」

低く甘い声が聞こえて、ゆるりと背後から抱きしめられる。
びくりと肩を震わせると、そのひとはヒヒッと上ずった声で笑い抱きしめる力を強くしてべろりと舌を耳に這わせた。

「今日は仕事遅かったね。疲れたでしょ、風呂も沸いてるし入ろっか」

たぶん、私を抱きしめて服を脱がせるこいつは風呂の準備をしてくれて料理も作ってくれてそして下着を汚した人物だと思う。
……でも、私はコイツの声に見覚えがない。そして、歴代の彼氏でもない。
誰だこいつ。