旧・語り兼自分用メモ

突発話
2022/04/07() 01:51

【誰かが生まれた日】

「すっげー違和感がある」

ミカエルの部屋に報告書を持ってきたザドキエルは、それを渡したと同時にそう言った。
「……??特に部屋の模様替えはしていないですが……。あ!!でもキャンディポットは新調したので、それですかねぇ??」
確かに部屋に入った瞬間、机の上に平然と置かれた、ハンドルを回せば飴が出てくる小さなキャンディマシンが目に留まった。
そしてこれを、目の前の天使が『キャンディポット』と呼んでいる事も可笑しい。

しかし経験上、どうこうツッコミを入れたところで、「楽しくなるかと思って」と、満面の笑みを浮かべて返されるのがオチである為、あえてスルーしていたのだが。

「味がお楽しみになってしまうのですが……良かったらどうぞ」
それを両手で持ち、笑顔で飴を勧めてくる姿にザドキエルはこの流れに乗る事を決め、軽く溜め息を吐いてから「んじゃ、遠慮なく」と言いながらハンドルを回す。

ガリガリという喧しい音の後に、カツン……という軽い音と共に出てきたのは、オレンジ色の丸い飴……
口に含めば、見た目の予想を裏切らない、オレンジの味が広がった。

「あ〜。まんまオレンジだな〜……じゃねぇんだよ。詳細を言わなかった俺も悪いし、確かにそれの違和感もすっげぇあったケドさぁ」
「??」
キョトンとした表情で首を傾げるミカエルに、ザドキエルは飴を噛み砕き食べ終えてから一つ、深い溜め息を吐くと……
「ハッピーバースデーって言葉に違和感がある」
と、抱いている違和感の事を話し始めた。

「そう……ですか??私は、ごく普通の言葉だと思うのですが。特に、人間のご両親からすれば、それは特別な日で、産まれ成長していく様を見られる事は、とても喜ばしいかと…」
「それは前提が『望み産まれて、周りにも愛されていたら』の話だろ??」
「!!!」
「ミカエルも……つか、ミカエルが一番分かってるんじゃね??そんな奴ばっかじゃねぇって。なのにさ、誕生日が来たってだけで周りはそんな事情も知らないで……中には事情を知ってる奴ですら『ハッピーバースデー』って言うんだぜ??言われた方は「何がハッピーだ、何が特別な日だ。ふざけんな」ってなるだろ??」

勿論、その一言で心が救える可能性もあるのかも知れない。
けれど、何度考えても違和感の方が大きいのだ。

「本当に……ザドキエルには、気付かされる事ばかりですねぇ。確かにそう考えると、安易にお祝いは出来ないかも知れない。それに、子供の頃は良いけど、大人になると自分の誕生日を祝う事が嫌になった……という話も聞きますしねぇ」
「だろ??だから違和感なんだよ」

毎年やってくる特別な日…
けれど、場合によっては呪われた大嫌いな日……

「……。もしかしたら、誕生日は『祝う日』ではなく『褒める日』なのかもしれませんねぇ」
暫く考えていたミカエルは、そう答えた。
「は??」
「勿論、これも考え出せば前提が色々あるし、反感を買いそうな気もするんですが。人間は平穏無事な日も、そうでは無い日も、その日を精一杯生きている。しかし、それは『当たり前』過ぎて、誰も褒めてはくれない。けれど、『一年を生きる』という事は、私達が想像しているより大変だと思うんです。中には、死にたくなる様な思いをしたり、大切な人を失ったり……。そんな中で生きていくしかない状況も生まれてくる。しかし、そんな中で一年を生きたら、それは『祝う』のではなく『褒める』なのかなと」
「褒める……か」
「はい。それに、誰に言われなくても、年に1度くらい、自分で自分を褒めても良いと思うんです。『大変だったけど、頑張ったね自分』って」
柔らかく微笑んで言ったミカエルに、ザドキエルの中で、抱いていた違和感が少し、消えた様な気がした。
「成る程な。やっぱド天然でも天使長だわ」
「ええっ!!?」
「でも……そっか。『褒める日』ってのは、なんか良いな」
「あくまで、私の考えですけどね。ひょっとしたら、『これが正解』という言葉の掛け方も、過ごし方も無いのかもしれませんし」
「それでも……俺は『褒める日』の方がいい。うん。やっぱミカエルに話して良かったわ。サンキューな」

そう言って部屋を出ていく彼の背に、ミカエルは再び柔らかく微笑んだ。


─誕生日を迎えた君へ……
今年も、精一杯生きていてくれて有難う……
大変な日もあったけど
よく頑張ったね……─

END...

───────
†誕生日に、なんで『おめでとう』なのか、違和感があり……
『おめでとう』じゃなくて『有難う』とか…一年を労ったり褒めたりする日じゃ駄目なのかなと。

ただ、当家には『誕生日おめでとう』と言われて、救われたキャラも一人いたりするので……
後で読み返しても、それはそれで、その一言に色々詰め込まれている気もしていて、もしかしたら本当に、誕生日の正しい声かけなんて無いのかもしれないなと。

それでは……
あまり上手く纏まりませんが、ここまでお目通し頂きまして。

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