短編 | ナノ


体育祭で久々知くんと二人三脚を組むことになりました。


…………女子の視線が痛い。
仕方ないんだよ、男女別背の順をして決めたんだから。私だって後五ミリ欲しかったさ!まあ、それがあってもペアは尾浜くんになってたし、どっちもどっちか、うん。尾浜くんのファンの方が穏やかだとか聞いたことあるけど私気にしない。気にしないったら!

「河内さん、もう少し近付いてくれないか」
「はっ、はいい」

これ以上近付いたらあのお姉さまだとか、かわいいあの子の顔が般若になるんですようう、とは言えない。久々知くんはあくまで真面目にこの競技に取り組んでいるのだ。しっかり肩を抱いてくれて、体をぴったりくっ付けていたとしても疚しさや恥じらいは一切無いのだ。真面目だから。いくら私が恥じたり、美形だなあ久々知くん、体細いなあ久々知くん、ともやもや疚しいことを考えていたとしても一切関係無いのだ。真面目だから。しかし、そう考えてからスナイパーのごとき殺気の籠った視線を受けてはっとするのだ。見られてる。見られてる。

「河内さん?」
「うん。わかってるよ久々知くん、はじめは私右足だよね」
「いや、そんな話はどこも……俺は左足だな」
「いっちに、いっちに、だよね?わかってる!」
「あ、ああ」

一生懸命練習してるように見えたらきっと最悪な事態は訪れないはず。よし、頑張ろう!どうせ後10分練習したら次は本番前にちょっとだけだし。全力で今は練習しよう。久々知くんの顔は視界に入れず、足元と前だけ見つめるのだ私。やればできる子!

気合いを入れる私は気付いていなかった。然り気無い久々知くんのボディタッチが多いこととか、必要以上に体をくっ付けているとか、実は各ペアで練習は適度にするとか、何かと理由をつけてこれから毎日久々知くんと練習することになるとか、本当に全く、この時は思ってもいなかったのだ。

(やばい河内さん、いい匂いがする……)


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テーマ「人外ファンタジー」
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