永遠に等しい一週間

『おはよう、起きたよ』

『目が覚めた時のあいさつはこれで合ってるんだよね?』
『ぼくねえ、ちゃんと覚えてるんだからね』
『ぼくが眠っちゃう前のことも』
『そりゃ、全部完璧にってわけにはいかないけどさ』
『きみがすっごく良い人だったことも、ちゃんと』

『そういえば、この前ぼくが起きた時とはずいぶん景色が変わったね』
『ぼく、ちゃんときみのお願いを叶えられたみたいだ』
『あ、でもあの日は』
『ぼくがこの前起きた日は』
『今日と同じ青い空だったね』
『目を開けたら真っ青でさ』
『ぼく、夢の続きかと思ったよ』
『でもすぐにきみの顔が覗きこんできて』
『お互いびっくりして飛び上がったね』
『それが可笑しくって今度はふたりで笑い転げた』
『それからきみはこっそりぼくを家に連れ帰ったよね』
『お母さんたちにもばれないようにさ』
『本当はね』
『あの時はぼく、ちょっと怖かったけど』
『すぐにきみが図鑑を引っ張り出してぼくを見つけて』
『それで驚いたあと』
『きみは、"千年忘れられないくらい、すっごい一週間にしよう"って笑ったから』
『ぼくは、きっと大丈夫だってほっとした』
『その日きみはすっかりやる気満々で張り切ってたけど』
『結局一日目は一週間の計画を立てて終わっちゃったよね』
『千年後には絶対この小さな出会いなんか覚えてられっこないって思ってたけど』
『きみはすごいよ』
『本当に忘れてないんだ、あの一週間のことは』

『二日目には、きみってばさあ、ありったけのお菓子を買って来ちゃって』
『ふたりじゃ食べきれなかったし、きみのお母さんたちに怪しまれるしでさんざんだったよ』
『言っておくけどぼく、お菓子で大喜びするほど幼くないんだよ』
『…嬉しかったけどさ』

『三日目は雨が降っちゃって大変だった』
『きみはあの日をつまらない一日だと思ったみたいだけど』
『ぼくは楽しかった』
『あの日は一番、きみとおしゃべりした一日だから』

『四日目』
『ぼくはねえ、実はねえ』
『…』
『うーん、やっぱり言わないどこ』
『…』
『あのねえ』
『やっぱり言うけどねえ』
『あの日にきみが、悪いやつらからぼくを守ってくれたとき』
『それで、ちょっといけないことをしたぼくを怒ってくれたとき』
『きみのことが大好きだ、って思ったよ』
『…テレパシーで、聞こえちゃった?』
『それ、きみの空耳かも』
『ううん、でも本当に』
『大好きだよ、貴女』

『五日目はぼくたちちょっと、冒険したよね』
『四日目の予定が崩れたからその分は早送りみたいに取り返してさ』
『ふたりでげらげら笑ってたらきみが転んだり』
『ちょっと夜遅くに森まで歩いてさ』
『きみ、全然怖くないって顔してたけど』
『震えてたからね、ぼくが守らなきゃと思って』
『わざと前を進んであげたんだよ』
『でも終いにふたりとも怖くなって逃げ帰ったね』
『…ぼくは今なら絶対大丈夫だと思うけど』
『そういえばあのあと、きみが図鑑を見て難しい顔をしてたのは何だったのか、今ようやくわかったよ』

『六日目はぼくの短冊に書く願いごとを集めたね』
『きみが全部書いて良いよって言ったのに聞かないから喧嘩した』
『言っておくけどきみが悪かったんだからね』
『もしぼくが自分の願いを叶えられたなら』
『きみとずっと一緒でいられますように』
『って』
『お願いしたいよって言ったのに』
『結局、きみが書いたのは一つだけだった』
『あとは良くわからない地域調査とかいうので決めちゃって』
『まったく』
『ぼく怒ってるんだよ』
『だいたい、せめて叶ったかどうかすぐわかるやつにしてって言ったじゃないか』
『本当にさ、きみって頑固な人だから』
『優しくて頑固なともだちだからさ』
『…もう怒ってないよ』
『さっき怒ってるって言ったけど本当じゃないから』
『だって怒れないじゃないか』
『"千年後、きみの目覚める時代が平和で、緑豊かでありますように"』
『なんてさ』
『…貴女のばか』

『ええとそれで、七日目は』
『おもいっきり遊んだあとで星を見に行ったんだよね』
『きみが自転車を漕いで、きみとぼくが会った場所まで』
『最後までお母さんたちにはばれなかったねって笑って』
『ぼく、昨日寝溜めしたから徹夜できるはずだよって言ったら』
『きみが笑って』
『"また会えるよ、だから大丈夫。その時にはきみが見た夢の話を聞かせてよ"って』
『言いながらずるいよね』
『ぼく知ってるから、きみがちょっと泣いてたこと』
『だから余計に、絶対眠ってやるもんかって意気込んで』
『一緒に八日目の相談をしてたはずなんだ』
『それなのに』
『いつのまに夢見てたんだろ』

『…それがね、どうにも思い出せないから』
『今こうして最初から聞かせてみてるんだけど』
『夢じゃなかったよね?』
『あの一週間は』
『…良かった』

『ねえ、きみって意地悪なやつ』
『優しいけどさ、やっぱり意地悪なやつだよな』
『あんなお願いごと、変だと思ったんだ』
『どうしてぼくに教えてくれなかったのさ』
『ほら紹介してよ、その新しいともだちを』
『きみがぼくの大好きな貴女を、ちゃんと連れてきてくれたんでしょ』
『ありがとう』
『ちょっと、ぼくは貴女じゃなくてその子にお礼言ってるの』
『え?なあに?』

『へえ、セレビィってゆうんだ!』




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