2017 ぼくらのとしはじめ


「よ…っと。」

 こんなもんかな。
 真っ赤に塗られたお重箱。艶々と煌めくそれは、何でも外国からのお土産だそうで…毎年、お正月には重宝している。中に色とりどりのおせち料理を敷き詰めれば、随分豪華に、美味しそうに映る。まんま味の宝石箱やー、なんちゃって…。
 大掃除でほぼ終了してしまった大晦日だったが、なんとか年越し前に無事完成。頑張ったぞー私!

「あ、ノクタス!お手伝いに来てくれたの?」

 のしのしとやって来てこちらを伺った彼はこくりと頷いた。

「ありがとう、じゃあこのお重、……結構重いけど、運べるかな…。」

 任せろと言わんばかりに一度深く頷いてお重を抱えたノクタスだったが、心なしかややフラついているような気がしなくもない。だ、大丈夫…なのか…?
 心配で背中をじっと見送っていたが、ノクタスよりも重くゆっくりとした足音が近づくのに気がついて、ほっとする。

「さてと、えーと、後はお雑煮の出汁…あれ、もうあと10分!?仕方ない明日で良いか…!!」

 時計の長針に焦った。危ない、年越しの瞬間を一人台所で過ごすところだった!
 エプロンで手を拭いつつ和室へ駆け込み、すでにぎゅうぎゅうしているこたつへ滑り込む。立ちっぱなしで冷えきった足が途端に暖まる。

「ひゃー、暖かい!ぬくぬくだねえ、こたつは偉大だねえ。」

 隣にあぐらをかいたゴロンダがにっと笑った。うん、彼の毛皮もこのぬくもりに大いに貢献していることだろう。今年はこのデカい図体が入れるこたつを探すのに苦労したことを思い出した。
 テレビでは恒例の歌番組が終了したらしく、その結果発表と共に正面のヤルキモノが両手を上げて大きく叫んだ。

「ちょっと、うるさ…ヤルキモノ!!ご近所さん寝てるとこもあるかもしれないでしょ、しーっ!ほらオレンの実でも剥いて…え?もう終わったの!?」

 こたつの机の真ん中に設置された通常より大きなザルは見事に空っぽ。いやいやいや、えええ?おかしいでしょう、だって山盛り、山盛りに入れてあったよ?ついさっきだよ出したの。
 まったく落ち着きのないヤルキモノではあるが、食い意地がはっている彼はちまちまとオレンの皮を剥いている間はまだ大人しく出来る。それに気づいたのはこたつを買ってからだったな。
 ヤルキモノは中途半端に両手をあげたまま冷や汗をかいてこちらを見ている。ノクタスは呆れたように首を振った。
 良く見れば、大量に積み重なっているはずの皮があまりにも少ない。

「…あなた…まさか皮ごと……?」

 ヤルキモノの冷や汗はもはや滝の如し。

「嘘でしょちょっと!!そんなとこだけナマケモノの頃のものぐさ出さなくて良いから!!」

 ヤルキモノはしょぼんと項垂れた。
 ちらちらと上目遣いがわざとらしい…でも可愛く見えちゃうのは親バカなのか…!

「まったくもう…ちゃんとゴロンダとノクタスにも分けてあげたの?」

 今度はブンブン頷く彼。はいはい。

「しょうがないなー次からちゃんと剥いてね。それから、あんまり大声出さないの。」

 ニカーーッと笑顔で拳を突き出すヤルキモノに笑顔になる。やっぱり可愛いわうちのポケモン。
 ぐいっと腕を引かれ、見上げればテレビを示すゴロンダ。

「あ。」

 0時0分。
 除夜の鐘が鳴り響いている。
 108の鐘の音は、今年も澄み渡って届き、新たな年への期待を感じさせた。

「年、明けたね。」

 ノクタスがこたつから足を引っ込めて、器用にも正座を組んで鳴いた。いつもながら、凄い礼儀正しいよねこの子。おっと、トレーナーも負けてられませんな。
 私も足を戻してきちんと正座をする。

「うん、よし、皆!あけましておめでとうございます!」

 頭を下げれば三方向から思い思いの返事。
 ノクタスは静かに目を細めつつ、ヤルキモノは彼なりに押さえた元気の良い声で、ゴロンダは少し照れ臭そうに枝を噛みしめながら。

「去年一年、ありがとう。そして今年も。これからもずっとよろしくね。」

 皆の笑顔に負けないくらいの笑顔で告げる。あー幸せ、もう最高の一年は確定だね!

「あら。」

 机の上で震えだしたライブキャスターに首を傾げる。年越しまもなくご挨拶かな。

『もっしもーーし!貴女ちゃん!!』

 映ったのは溌剌としたポニーテールの女の子。

「あ、トウコちゃん?わお、驚いたよ!」

『ふっふん、トウヤも居るよ!あけましておめでとー!!』
『こんばんは、貴女さん。あけましておめでとうございます。』

「ほんとだ、こちらこそ!あけましておめでとう!…二人ともそれ、着物??」

『そうそう!かわいいでしょ?初詣!!』

ちらちら映る背後には彼らから話に聞く幼馴染み達の姿もあるようだ。

「初詣…!いいね!」

『貴女ちゃんも絶対今度どっか遊び行こ!去年あんまり会えなかったし!バトルも絶対!たくさんするんだから!』

「ば、バトル…はちょっと…。」

 だってトウコちゃんめちゃくちゃ強いんだもの。

「でもありがとう!私も今年はたくさん会いたいな。今年もよろしくね!」

『うん!よろしく!!よいお年をー!』

 画面の暗くなったライブキャスターを見つめ、相変わらず元気な子だなーと思った。久しぶりに話をしたから、なんだか会いたくなってしまった。今度、私から声かけてみようかな。
 そして初詣。

「初詣かー、私たち行ったことないもんねー。」

 ちょっと行ってみたい気もする。が、寝転がってだるそうに腹をかくゴロンダと、重箱と私を何度も見やって催促するノクタスとヤルキモノを見て。

「まあ今年も家は寝正月ですよね。はいはい、おせち開けましょうねー。」

 輝く目を笑って、ゴロンダの横におかれた重箱を机に乗せる。
 蓋を開ければ、二匹からこぼれる歓声。次々段を降ろせば、その都度上がるそれに、最高に気分が良くなる。いやー良いリアクションしますねあなたたち。
 むくりと起きあがったゴロンダが黒豆を巡ってヤルキモノと攻防を始める中、ノクタスが腕を引く。

「うん?食べないの?」

 首を横に振った彼は、ライブキャスターを指し、続いて外を指した。その目はにこっと笑んでいる。

「えっもしかして初詣?」

 頷く彼に目を見張る。

「寒いよ?大丈夫?良いんだよ今年もこたつでぬくぬくお正月でも!」

 草タイプも入っているノクタスは冬が苦手だった筈なのに、どこまでもトレーナーを気遣ってくれる優しい子だな君はーー!
 悪タイプを欠片も感じないよ私!!むしろフェアリー入ってるんじゃないの!?
 にこにこしている彼にじいんとくる。くそう、今年はより一層甘やかすぞ!!
 気づけば重箱の上で繰り広げられていた黒豆の戦いは賞品の終了をもって終決していた。二匹は相変わらず他の料理を食い漁りながら、会話を聞いていたらしく親指を立てて見せた。

「ううう本当ありがとう皆…!!じゃあ、おせち食べたら行こっか初詣!近所の神社だけどね!」

 こんな素敵な仲間に囲まれてトレーナー冥利に尽きるよ、本当。

 今年も良い一年を過ごせそうです。ありがとう。






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