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青い拘泥



「どーにもうまくキマらねーんだよなあ〜っ」


朝から集中力散漫気味だった仗助が、髪を撫でつけながら呟く。登校中も散々弄りまわしていた割に、未だ求めるスタイルには届かないらしい。正直言って違いなどわからないのだが下手なことを言えばしばらく殴り倒されるのだから、康一は苦笑するしかなかった。


「まあ、そういう日もあるんじゃないかなあ」

「けどよォ康一〜、こう……ビシッとキマらねえと嫌な気分になるだろォ〜?朝スッキリした気分で学校来れるかどうかってけっこう大事だと思うぜぇ〜」

「ぼくは仗助くんほど気合いいれてないからなァ……やっぱり大変なの?」

「ったりめーよォ、毎朝けっこう大変なんだぜェーっ」


そこから始まる仗助のリーゼント談義を聞き流しつつ、ちらりと視線を逸らす。食べるのに夢中になっているらしい億泰と、端から話を聞く気がないらしい賢吾が空になった弁当箱を脇に置いて本をめくっている――それぞれ漫画や小説、雑誌を屋上に持ち込んでは積んでおき、そこにいる間は自由に貸し借りできるというルールが自然と出来上がっていたのだ。
ちょっとくらい代わってくれたっていいのになァ、と少し考えて、康一は彼らを巻き込むことに決めた。


「億泰くんと賢吾くんは、髪型にこだわりとかあるの?」


口の端にパン屑をつけたまま顔を上げた億泰と、本から目を離した賢吾がきょとんとした顔で康一を見た。ちょっと露骨すぎたかと心配したが、そこは人徳の為せる技だろうか。二人は何の疑問も持たなかったらしい。


「オレはよォ〜、やっぱこのバランスだよなッ!刈り上げの時とかけっこう気ィ遣うんだぜェ〜」

「制服もけっこう弄ってるし、億泰くんも何気にオシャレだよね」

「だろォ〜?実はよォ、制服はちょこっと兄貴のマネも入ってんだよなァー!」


形兆とお揃い、とまではいかないが虹村兄弟の制服にはそれぞれ名前の一文字が入っていたりと共通点も多い。何だかんだ仲の良い兄弟である。
微笑ましく思いながら、賢吾を見る。彼は校則の体現者のような出で立ちだから髪型も制服もこれといった改造点はないが、もしかしたら何か面白いネタでもあるかもしれない。視線で先を促すと、悩むように首を傾げられた。


「僕は……特にないな。校則に違反していなければ構わないし」

「あー優等生サマはやっぱ違ェなーおい」

「というか、弄ろうにも、こう……どうにもならないというか」


言いながら賢吾は自身の短い前髪を指先で摘まむ。なんというか――纏まりがない。癖毛でもないので苦労したことはないが、たまに寝癖がつくとなかなかしぶとかったりする。


「オメー髪サラッサラだよなァ〜」

「いきなり触るなよ……」


左手でパンを食べながら、億泰が右手を賢吾の頭に伸ばす。賢吾は嫌そうな顔をしたが気にしたら負けだし一度気になったら諦めないのが虹村億泰という男だ。賢吾もそれを分かっているのか、溜め息を一つ吐いてされるがままになっている。


「オレの髪かってーからよォ、なかなかうまくキマんねーんだよなァ〜」

「オレもよー、なんでか前髪の一部分だけ妙にハネるんだよなァ……と思ったら若い頃のジジイにそっくりでよォ……」

「あはは、じゃあジョースターさんの遺伝なんだ?」

「嬉しくねーよなァ〜」


そう言いつつ、仗助は満更でもないという顔をしている。色々と複雑に思うところはまだ多々あるにせよ、ジョセフのことは尊敬しているらしい。
――とはいえ、似ていて嬉しい点と嬉しくない点というのはやはりあるわけだが。


「賢吾は髪伸ばさねーの?校則っつってももーちょい伸ばしてもオッケーだろ」

「短い方が楽じゃないか。ほっといてもすぐ乾くし」

「えッ!おめードライヤー使わねーのォ!?」

「別にいいだろ、すぐ乾くんだから……たまに寝癖がつくけど」

「ええーッ、無頓着な割に全然痛んでないよね?羨ましいなあ」

「ちょ……」


気付けば囲まれて、三人がかりで頭を弄られている。康一はともかくとして、仗助と億泰は二人揃って身長は平均を上回り、更に筋肉もしっかりついている。正直に言おう――むさい。痛い。暑苦しい。
数秒間は呆気にとられてされるがままにしていたが、そもそも人に触られること自体に耐性がない賢吾である。ほどなくして、爆発した。


「ああもう鬱陶しいッ!人の頭を好き勝手弄りまわすなッ!」

「ちなみに髪が傷まないように気を遣ってたりとかは……」

「ないッ!!」


尚食い下がる億泰を一喝して、ぼさぼさになった髪を手櫛で整えつつ少し離れて座る。憮然としたまま三人を睨み付ければ、康一だけが「ごめんね」と苦笑した。


「……別に女子でもないんだから、そこまで気にすることもないだろう」

「いやいや〜男でもオシャレすんなら髪は大事だぜェ〜委員長よォ」

「兄貴もけっこう気ィ遣ってんだよなァ〜実は」

「先輩はいいんだ」

「えっなにその露骨な贔屓」


ゴホン、と咳払いをひとつ。誤魔化そうとしているのか、うっすらと頬が赤い。賢吾はふんと鼻を鳴らすと、積んであった山から一冊を手元に引き寄せて開きながら呟いた。


「髪がどうのこうのって言うんなら、それこそ山岸さんに聞いたらいいじゃないか。彼女はかなり気をつけてるだろ」

「賢吾くんはぼくに一週間学校に来るなって言うの?」

「えっ」

「そういや賢吾はプッツンした由花子見てねえんだっけ」

「ありゃマズイって……康一が髪云々なんて言ったらそれこそまた監禁されるぞ」


山岸由花子とはそんなに怖い人だったか、と首を傾げつつ、康一の目が洒落にならないほど真剣だったので深く追及しないことにした。
それにしても――髪とは。まさか男子高校生ばかり集まってこんな話題になるとは思わなかった。この面子でいて、予想通りに事が進むことも珍しいといえばそうなのだが。

そこからドライヤーだのトリートメントだのという話に花を咲かせ始めた三人の横で、手に取った本――誰かの雑誌だった――を開く。普段読むことのない分、たまにめくると面白い。ぱらぱらとめくっていく内に、ふと目に入ったのは――今まさにしていた、髪の記事。


曰く、『髪を生乾きにしたまま寝ると、抜け毛や薄毛の原因になる』。


――――別に、鵜呑みにしたわけじゃあ、ない。ないけれど。


「……今日からドライヤー使うか……」



こっそりと決意して、ばれないようにその記事を読みふける賢吾であった。



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『賢吾の髪に関する話。サラサラの黒髪の七三のイメージ、髪の毛について話しているとか、髪型をいじられたり』 というリクエストで書かせていただきました!


四部の人達はみんなオシャレに気を配っててすっごく可愛いですよね、そこに混ぜるならどんなかしらと妄想しつつ書かせていただきました。
賢吾の髪型、本当に校則に触れない(前髪は眉上とか)とは言いつつぶどうヶ丘高校は校則ゆるそうなので、他に守っているのがどれだけいるのやら(笑)


リクエストありがとうございました!






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