■ 6

青褪めた顔の少年は――仗助のクラスメイトであり、学級委員長を務める彼は、神経質そうな細い眉を思い切り顰めて、大きく舌打ちを溢した。元から顔色がよかったという印象はないが、今や彼の顔色は青を通り越して白い。いくら好ましくないといえども、憔悴した様子の人間相手にいきなり殴りかかるほど仗助は無慈悲ではなかった。きつく睨み付けてくる賢吾に困った顔をしながら、目線を合わせるようにしゃがみこむ。


「そのトカゲ……お前のなのか?」


大人しくしているトカゲを指差して、首を傾げる。彼が『スタンド使い』だとは、俄かには信じられなかった。仗助にとって『スタンド使い』とは、非日常の体現者だ。学校というものを最も強く連想させる目の前の少年がそんな要素を持っているとは、どうにも信じられない。
賢吾とはあまり会話をしたこともないし、不良というものを目の敵にしている節のある彼とは恐らく馬が合わない。それでも、聞いておかねばならなかった。


「――邪魔だ。その無駄にでかい図体をさっさと退けろ、バカ」

「んなっ!?」


蹴られそうになり、仗助は慌てて身を引いた。フンと鼻を鳴らし、賢吾は立ち去ろうとする。仗助の問いに答える気は、これっぽっちもないようだった。


「ま、待ちやがれってんだよォ〜〜〜!てめー答えやがれッ!そのトカゲはッ!『スタンド』じゃあねーのかッ!」


咄嗟に、すれ違いざまの賢吾の右手を掴む。びくりと身体全体を震わせ、彼はまた座り込んでしまった。慌てて手を離すと、先程よりもずっときつく睨まれた。視線で殺されそうなほど、憎悪が籠った眼差しだった。
よく見れば、彼の右手は真っ赤に腫れあがっていた。右手を庇い、汗を浮かべた表情を見るに相当痛いらしい。思わず「わ、わりぃ」と謝るも、舌打ちを返されるだけだった。


「何でてめーが『今』ここにいて、何でそんな怪我してんのか……スゲー気になるけどよぉ……
とりあえず治してやっから、手を出しなよ」


『クレイジー・ダイヤモンド』を出して、促すように顎をしゃくる。賢吾の視線は、仗助の背後に――スタンドに、向けられている。『見えている』のだ。仗助は確信した。


「辰沼、てめーこいつが『見える』ンだろ。つまりてめーも『スタンド使い』ってことだ……
『スタンド』は『スタンド使い』にしか見えねーんだからなッ!」


賢吾は答えない。ただじっと、仗助と彼のスタンドを睨み付けている。話をする気も、聞く気もなさそうだった。


「……無駄な話をする気はない。早く帰らなくちゃあならないんだ……宿題をやらないといけないんでね……」

「ンなこと言ってる場合かッ!」

「ああそうだとも。お前のような脳ミソスッカラカンな輩と違って、僕は忙しいんだ。今こうしてしたくもない会話をしている時間も惜しい」

「てめえ……」

「『スタンド』?何の事だかさっぱりだね。正直言ってどうだっていい……問題なのは、僕とお前が会話をしているということだ。
『優等生』の僕と、『不良』のお前が話しているところを誰かに見られたらどうしてくれるんだ?え?お前の印象がどうなろうと知ったことじゃあないが、この僕が『不良とツルんでいた』だなんて思われるわけにはいかないんだ」


吐き捨てるように言うと、賢吾はそのまま背を向けてさっさと歩いて行ってしまった。仗助としては、あのトカゲの能力のことを色々と聞きたかったのだが恐らく話していても平行線だったであろうことは予想がつく。
唇を尖らせ、「まあ明日学校で捕まえりゃいいか」と呟き、億泰のところへ戻るのだった。



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