■ 5


確かに生きている形兆を見て、再び滂沱と涙を流し始める億泰。仗助もまた形兆の生存を喜ぶと同時に、「なぜ形兆が生きているのか」を考える。
あの時、確かに『レッド・ホット・チリ・ペッパー』によって彼はコンセントに引きずり込まれ、そのまま感電死したはずだ。最初に電線に引っかかっていた姿は死体そのものだったし、そもそも形兆を殺したという確信なしに奴が撤退するとも思えない。だが彼は生きている。しかも、怪我の具合も多少はマシになっているようだった。

『クレイジー・ダイヤモンド』で治してもいいが、回復した形兆が再び仕掛けてくるかもしれない以上、意識を失ったままにしておく方が賢明に思えた。承太郎がSPW財団と共にやってくるまで恐らくそこまで時間はかからないだろうし、心配はいらないだろう。

さて、目下一番怪しいのはこの「黒焦げのトカゲ」だ。空から降ってきたというには不自然すぎる。こいつが何らかの方法で形兆のダメージを肩代わりしたとしか思えない。こいつが生きていれば何かしらの手掛かりになったかもしれないが――


「なァ、何か変なのがいるぜェ〜?」


とりあえずトカゲの死体を『クレイジー・ダイヤモンド』で殴ってみようとしたところに、鼻声の億泰が声をかけてきた。その未だにぼたぼたと大粒の涙を溢す目がじっと見つめているのは、仗助の足元だ。
視線を落とすと、ちょうど仗助の靴の横に、目の飛び出した――よく見ると螺子だ――尻尾の青いトカゲが、ちょこんと佇んでいる。


「ひょっとして……こいつの仲間か?」


見比べてみる。死体の方は黒焦げな上に尻尾が切れているため何とも言えないが、このタイミングで出てきたということは仲間かつがいのどちらかではなかろうか。
仗助の問いかけを聞いているのかいないのか(そもそもトカゲは人語を理解しない)、トカゲはじっとしている。もっと近くでよく見ようとしゃがみこみ、顔を近付けた。ばっちりキメられた仗助のリーゼントが影を作り、トカゲを覆う。するとぴくりと反応を示し、トカゲは仗助を見上げてきた。視線が、ぶつかる。


「あッ、逃げんなコラァー!!」


瞬間、トカゲは素早い動きで身を翻した。仗助も後を追う。捕まえようと手を伸ばすが、スルスルと滑らかな動きで近くの塀を登って向こう側へ行ってしまった。普通の人間ならば、そこで追跡を諦めてしまっただろう。回り込んでいるうちにトカゲはどこかへ消えてしまうだろうし、ましてや塀を越えるにも時間がかかる。
だが仗助にはスタンドがある。そう、壊して直す、『クレイジー・ダイヤモンド』が。


「ドラァッ!」


気合いと共に塀を破壊し、トカゲを追う。走り去る仗助の背後では崩れた塀がひとりでに元に戻るという、何も知らぬ人が見たら驚くであろう現象が起きていたが今は気にしていられない。コンクリートの地面を駆けていく鮮やかな青い尻尾の持ち主を追いかけて、仗助は走った。このトカゲには何らかの『能力』があるのは確かだ。そしてそんな『能力』があるとすれば――このトカゲの行く先には、『スタンド使い』がいる可能性が高い。敵か味方かは、会ってみなければわからない。敵ならぶちのめせばいい。それだけを考えて、走っていた。
トカゲが物陰に入っていった。人ひとり通るのがやっとの狭さの裏道だ。仗助は髪型を崩さないように細心の注意を払い、自らもそこに入ろうとして――


「おッ……おめーは……!」



トカゲは、そこで蹲る人物の足を伝ってするすると肩まで登った。肩には既にもう一匹、まったく同じ外見の奇妙なトカゲがいる。
顔を隠すように頭を抱えていた人物が、顔を上げる。それは仗助にとって見慣れてはいないものの、充分に見知った顔であった。



「辰沼、賢吾……!?」




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